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世界に通用する日本料理は異世界にも通用するのか?  作者: 浜守 連
第一章 この少女の願いは成就するのか?
2/11

今更異世界モノとか通用するのか?

ここは海沿いのとある町。

総人口一万五千人強の小さな町で、漁業や織物の生産が盛んな普通のど田舎。


そんな普通のど田舎の普通に小さなメインストリートから少し入った路地にここ「海神館」はその門を構えている。


……まぁ、門を構えるといってもそんな立派なものは存在せず、そこそこ歴史ある旅館ではあるのだが、正面玄関には先日自動ドアを取り付けた。

今の時代自動ドアの旅館なんて珍しくもないだろう。


「しかし、玄関だけこう真新しいとチグハグな感じがして落ち着かんな」


現在我が家でもある旅館の門構えに、少しばかりの不満を漏らしながら自転車のペダルを漕ぎ出す。


そう、ぼくこと網野 京介は現在、この旅館の使われていない客室を借りて居候している板前見習いなのだ。


今こうして自転車を転がしているのも仕事の一環、要するにお使いの為だった。


「確か、葱とトマトを切らしてたなぁ」


今日は天気が良い。

スーパーマーケットまでは少し遠回りになってしまうが、湖沿いを通っていこうか。

なんてことを、葱とトマトが頭から逃げ出さない程度にぼぉっと考えながら、時速15km程度の緩い速度で進む。





旅館の前の路地をしばらく進み、一つ右に折れると一気に視界が広がった。湖だ。


まだ越してきて日が浅いこともあり、このやたら雄大な湖の名前は知らないのだが、晴れた日はその向こうに隣町が一望出来たりして景色がいいので、最近見つけたお気に入りのサイクリングコースでもある。


夏の訪れを知らせるように照りつける陽から視線を逸らして、湖沿いの桜並木に目を向ける。

時間が時間なら釣りを楽しむ人々もちらほらと見えるはずだが、お昼過ぎの現在、辺りに人がいる気配すらない。


と、しばらく湖沿いを走っていたら、少し先に見覚えのない石碑のような物が見えてきた。


「こんなのあったっけか?」


隣に自転車を着けてじっくりと見てみる。

普段なら石碑なんて気にも留めないのだが、その石碑には何やら全く読めない字で何かが書かれているようだった。こういうのは大体達筆に崩してあるものの、なんとなく意味が分かる程度に読めるものだろうに。


まぁ、読めない石碑には興味がない。

また自転車を漕ぎ出すため、視線を正面に戻そうとしたその時、あることに気付いた。

石碑の裏に見える地面が少し盛り上がっている。


今度は自転車から降りて石碑の裏まで近づいてみる。そこは坂になっているが、その途中にはぽっかりと、人一人がようやく通れそうなくらいの穴が空いていた。湖沿いの道からは見えないように、石碑の裏の坂に隠れるようにしてその穴は在った。


「使われてない排水路か?」


突然現れたその穴に指先程の恐怖心と、毛先程の好奇心を抱きつつ更に近づいてみる。


穴の前にしゃがんでみて分かったが、先が全く見えないほど暗い。試しに足元に転がっていた小石を投げ込んでみるが、その反響音すら返ってこない。


「これは……多分近づかない方がいいな」


葱とトマトのお使いを終えたらあの石碑とこの穴についてマスターに聞いてみよう。

好奇心よりも少しだけ恐怖心に軍配が挙がったところで立ち上がろうとしたその時。


トンッ


と何かに背中を押された感触。


「ーーえ?」


振り向いてその感触の正体を確かめることも出来ず、視界にはぽっかりと口を開けた暗闇が近づいてくる。


おいおい、石、投げ込んでも音が返ってこなかったんだぜ?


折り曲げた脚では踏ん張ることも出来ず、どんどんと穴に吸い込まれるようにして身体が傾いていく。


「お使い終わってないのに!」


そんな間抜けな叫び声を上げ、せめて自分を殺そうとしたナニかをこの目に焼き付けてやろうと首だけで振り向いた。


しかし次の瞬間にはもう、嫌な浮遊感と一面の暗闇に全身が包まれていた。


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