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世界に通用する日本料理は異世界にも通用するのか?  作者: 浜守 連
第一章 この少女の願いは成就するのか?
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ぼくの迷いはどちらに決断するのか? 2

元々何処かで期待してはいたけれど、お言葉に甘えて泊めてもらうことにした。


二階にある今は使っていない部屋を借りて、今はベッドで今日のことを思い出しながらぼおっとしている。


元々無精な性格なんだ、別に悩む必要もないだろうに。けれども脳裏に焼き付いて離れないリリーのあの表情を思い出してしまう。


違う違う違う。


悩むとすれば帰る方法だろう。

あの暖炉、確実にリリーに反応していた。

だったらいっそのこと全てを打ち明けて協力してもらおうか。


それか上手いことリリーを暖炉に誘導して、こっちを見ていない隙に暖炉に飛び込んでしまえばいい。


いや……光ったからといってそれで帰れるという保証はない。もしかすればそこから何か工程を踏む必要があるかもしれない。


やっぱり打ち明けてしまった方が、色々と楽になれそうだ。あの娘ならそう悪いことにもならないだろう。


思い立ったが吉日。

そう自分に言い聞かせて、ベッドの誘惑を振り切り立ち上がる。


「よし!」


非日常的過ぎる一日のせいで正直身体はくたくただが、もうこのベッドに横たわることもないだろう。さよならだ。


ドアノブを捻り、隣にあるリリーの部屋を伺う。


なんせもう夜も深い。

寝ている可能性だってある。

それにこんな時間に女の子の部屋にお邪魔するとか始めてのことなんだ、それなりに緊張もしている。


側から見れば完全に怪しい人物だが、幸いここには他に人がいない。廊下を抜き足差し足で進んでいく。


ぎい。


「ひい」


何で恐れる必要があるんだ。

別に悪いことしようとしているわけじゃないんだぞ。


「ーーぃ」


と、リリーの部屋の前についたところで、中から小さな声が聞こえてきた。


誰かと話しているのか?


「ーーさい」


違う。

どうやら独り言のようだけれど。


「ごめーーさい」


「おとうーーん」


ドアノブに伸ばしていた手をジャージのポケットに戻す。


盗み聞きするつもりはない。

大きく息を吐きながら、踵を返した。


「そりゃ、そうだよな……」


そう独りごちて、ついさっきまでごちゃごちゃとしていた頭の中の景色が、はっきりとフォーカスしてゆくような感覚に身を委ねる。


今すぐドアを開けて言いたいことや聞きたいことがあるけれど、今はそっとしておこう。


部屋から出てまだ数十秒だが、廊下を戻る。

今のぼくはなんだか空気の読めるかっこいいお兄さんって感じだが、戻る足取りは勿論抜き足差し足だった。


今は眠ろう。

さよならを言ったはずのベッドに戻って。

明日のことは明日の自分に任せるとしよう。





「おはようございます!」


あれこれ悩んで眠れなくなるということもなく、かなりぐっすりめの睡眠をとって朝を迎えた。


一階へ降りるとリリーが元気に挨拶してくる。


吹っ切れたとでもいうようなその笑顔を見ると、昨晩のことは全て夢だったんじゃないかと思う。


「あ、洗面所は二階の一番奥にあるので、自由にお使いくださいね」


でも、その笑顔を見て気付いた。

……駄目だこれは。


「あ、それとも先に朝ごはんにしましょうか。料理が下手といっても、パンくらいは焼けるんですよ? 私」


こんな、取り繕うような態度、見せられたら、駄目だ。


「リリー」


「はい?」


「この店、閉めるのやめよう」


「……え?」


そんな姿見てしまったら、余計なお世話をしたくなっちゃうじゃないか。


「実はぼく、料理できるんだ」


「だから、閉めるのはやめよう」


「それは……」


「ぼくには関係ないことかもしれないし、差し出がましいってことも分かった上で言ってる」


「どうして……だって」


「目の周り、赤いんだよ」


はっとリリーが自分の目を手で覆った。

澄んだ青い瞳の周りをデタラメに手の甲で擦っている。


取り繕うなら完璧にしてくれよ……。

そんなんなるまで泣いてしまうほど諦めきれないんなら、諦めるなよ。


昨日今日会ったばかりの奴が勝手なこと言ってるっていうのは百も承知だけど、男は女の涙に弱いってあれ、本当なんだな。


「諦めたくないんなら諦めないでいい、なんて厚かましいことは言わない。けど、今ここに、もしかしたら何か手伝えるかもしれない奴がいるんだから、手伝ってほしいって、一言言ってくれ」


後から思い出して布団の上で悶えそうな台詞だな。でも、ここまで言ったんだったらせめて責任は取ろう。


「ぼくはその一言で手伝えるから」


「アミノ、さん」


ずっと我慢していたんだろう。

リリーはそのまま声を上げて泣き出してしまった。


「助けて、下さい。このお店を、助けて、下さい……!」


しゃくり上げながら、途切れ途切れに、その一言を紡いだ。




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