点夜線夜2
巨大なスーパーの廃墟があった。少し気になってぐるりと周りを見てみるけとにした。
バイクの排気音をプルプルと鳴らし、正面から右手にまわる。
ちょうど店の裏手の搬入口だった場所で、人影が見えた。
男が2人、何か言い争いをしているようだ。これは怖い。関わらないでおこう。
速度を落とさず、彼等の脇を通り過ぎる際、怖いもの見たさで横を向く。
何と男の1人が大きな斧を振り上げていた。
さすがに無視するわけにはいかず、バイクを止めて叫んだ。
「やめなさい!怪我をしますよ!」
すると男2人はこちらに視線を向けた。
サイドスタンドを下げ、僕は走り寄る。
「何があったのかは知らないけれど、その斧を降ろしなさい!」
斧を構えていた男は、素直に斧を下げた。そして、もう1人の男が申し訳なさそうに僕に言った。
「いや、あのごめんなさい。これには訳がありまして」
「わけ?」
斧の男も僕に言った。
「いや、実はこれは訓練でして」
「くんれん?」
斧の男が続けた。
「実は、僕等は新人の強盗でして。人を脅すための訓練をしていました」
詳しく話しを聞いてみると、だいたいこう言う事だ。
彼等は強盗の会社に就職した同期で、先日上司と共に銀行に押し入り強盗に伺ったのだが、不慣れなせいで2人とも脅し文句が上手く言えず、銀行員に唾をかけられ、上司にはこっ酷く叱られたそうだ。だから2人で夜な夜な、こうして人を脅すための訓練をしていたのだと言う。
「僕等のような新人を雇ってくれた会社のためにと思って」
「そして、僕等のせいで売上げを落した上司のためと思って」
僕は素直に感心してしまい、訓練の邪魔をした自分が悪かったと思った。
「そう言うことなら納得しました。邪魔をして申し訳なかったですね」
と2人に謝罪した。彼等は笑顔で、お気になさらずと言い、また斧を構えて訓練を続けたのだ。
月夜の廃墟で、
「くうおおらああ!金を出さんかあああいいい!」
「ひえええ!命だけは!命だけはご勘弁を!」
と男たちの叫んび声が響いた。
僕は近くの自動販売機で缶コーヒーを買い、2人に渡した。
去り際に、
「頑張ってね」
と言い、2人は深々と頭を下げた。