第二夢
そうして彼女の後を追いかけて十分ほど歩いただろうか、彼女の足はある一軒家の前で止まった。
ー彼女の家なのだろうか?
そう思ったがそれは彼女の次の一言によりその疑問は解けた。
「着いたわ。さあ、上がって頂戴。
ーようこそ、私の研究所へ。」
どうやらここは普通の一軒家にみえるが彼女の研究所らしい。つまり彼女は研究者、ということになる。年齢は俺とあまりかわらない様にの見えだが...
「何をしているの?はやく入りなさい。」
「あ、ああ。すみません、お邪魔します。」
こちらに来てまだ混乱しているのか、思考を巡らせると足が止まってしますようだ。普段ならこんなことはあまりらないのだが...
ーっと、また思考に耽ってしまうところだった。今考えるより彼女、岡崎夢美と名乗っていたか、の話を聞いてから考える方がいいだろう。今は少し頭の中がゴチャゴチャすぎる。
そう考え、漸く中に入った。
その建物の内装は外見通り、普通の家とかわらなかった。研究所と聞いてその中にはどんなモノがあるのかと身構えていたからあまりの普通さに拍子抜けしてしまった。
「こっちよ。」
そう言って通されたのはリビングだった。
「そこに座って頂戴。」
そう言われ、指された椅子に腰掛けると彼女は机を挟んで俺の対面に座った。
「さて、それじゃあー」
と、彼女が口を開きかけたとき、「ご主人様?帰ってきたのか」という声が聞こえてきた。その声の先にはこれまた奇抜な、水兵のような服装に身を包んだ少女が立っていた。
「あら、ちょうどいいところに来たわね、ちゆり。
私とこの客人に珈琲を淹れて貰えるかしら。」
「夢美様がお客人を連れてくるとはこれまた珍しい。そのお客人の何が夢美様の興味を引いたのか気になるところだが、まあ大人しく淹れてくるぜ。」
ーどうやら彼女は服装以上にかなり独特な言葉遣いをしているようだ。夢美の事を様をつけて呼んでいたということは彼女は夢美の使用人なのだろうか。もしそうなのだとしたら夢美はどこかの令嬢なのか?
「さっきのは私の助手の北白河ちゆりよ。言葉遣いはちょっとおかしいけれど悪い奴ではないから宜しくしてやって貰えると助かるわ。」
「はあ...」
「それよりも貴方のこと、よ。どう、落ち着いた?」
「ええ、まあ先ほどより多少は。」
「それじゃあ貴方は一体何者なのか、貴方に何が起こったのかを話してもらえるかしら?」
「...わかりました。信じてもらえるとは思いませんが、俺はー」
俺が夢美に話し終わった丁度いいところでさっきの、ちゆりだっただろうか、が珈琲を運んできた。
「お待ちどう、ご注文の珈琲だぜ。」
「どうも」
受け取って一口飲んてみると、程よい苦味が拡がる。
どうやらブラックコーヒーだったようだ。
「それで話を纏めるとー」
夢美が口開く。
「貴方は今から3世紀ほど前の人間で、足を滑らせて謎の穴に落ちてしまい、気がついたらあの路地の裏にいた、と。」
「ええ、信じられないでしょうが本当なんです...」
「うーん、確かに信じ難いことね。でも先程迄の貴方の状態から鑑みても嘘とは思えない。第一、こんな荒唐無稽な嘘を私につく理由もメリットもないでしょうしね。」
...一先ずは納得して貰えたのかな
「ーそれで、貴方はこれからどうしたいの?」
「どう、とは?」
「貴方は元いた時代に帰りたいの?それともこの時代で一から暮らしていくの?」
「...そんなことを考えてる余裕がありませんでした。」
「まあどちらを選択するにしても寝泊りするところの宛もないのでしょう?」
「...仰るとおりで」
しまった。深刻な問題が山積みで解決できそうな望みが一つもない...
「そこで、そんな貴方に提案があるわ。」
「...なんですか?」
「貴方が私の手伝いをしてくれるのなら貴方をここに住まわせてあげるわ。さあ、どうする?」
どうするもなにも俺には道がひとつしかないじゃないか
「...是非宜しくお願いします。」
「交渉成立ね、これから宜しくお願いするわ。」
そんな訳で俺は彼女の助手となり、研究所の空き部屋の一つを私室として与えてもらい、身の置き場所は確保したがこれから自分がとうしたいのかはまだ不鮮明なままだ。
あまり長い期間ここに置いて貰うのも迷惑だろうし、早く自分がどうしたいのか、見つけなくては...などと考えつつ充てられた部屋のベッドに横になると今迄の気苦労からか、直ぐに夢の中に引き込まれていった。