第三話:問われる
「賛が公孫家に養子に出されるそうだ。」
は?
それは夕食の時だった。
てか養子にっていつの事ですか?
「明日」
早っ!
え? そんな急な話だったんですか?
「いや、養子に出されるのが決まったのは5日くらい前の事だ。」
……聞いてないのですが?
まさかと思いつつ、ジト目でオカンをみていると、自分の視線から目をそらし
「あ~すまん。忘れてた。」
ばつが悪そうに後頭部を掻く母。
てか忘れてたって……この脳筋オカンはぁ!
でも納得。
今日遊んだ後に賛ちゃんが涙目になってたのは、そう言う訳だったのかぁ。
……明日じゃ餞別はろくな物を用意できませんね。
もっと早く言ってください。
「あ~すまん」
しかし、公孫家に養子かぁ……ん?
公孫……賛?
公孫賛?
公孫賛?!
公孫賛て、あの公孫賛?
賛ちゃんが公孫賛……あれ? 賛ちゃんって女の子だよね?
ん~? どうなってんだ?
まあ、いいや。
今は賛ちゃんの養子の話だ。
しかし、公孫家の御当主には、嫡男が居られましたよね?
姫もそれなりにいらっしゃったはずです。
政治的にも、人材的にも、賛ちゃんを養子にする必要は無いはずですが、何でまた。
「それがな、賛を養子にとるのは後者が理由なんだと。」
はぁ? 人材的にですか? ですが、賛ちゃんは自分と同じ、まだ数えで10ですよ?」
「まぁな、だが、誰の影響なのか知らんが、賛の知や受け答えは10の餓鬼のソレとは思えん。」
机に頬杖をつき、コチラをニヤニヤしながら見てくるオカン。
正直、超うぜぇ。
「クククッ、まぁ賛の奴はお前と違って武の才も、それなりにあるからな。
国士無双とは、ならんでも群雄を割拠するくらいの将にはなるだろうよ。」
へいへい、才能が無くて悪うございますね。
しかし、賛ちゃんの才能を見出だして養子とは、理由としては弱いですね。
第一、韓信が欲しいのであれば、母上を勧誘すれば良いだけですしね。
御当主の奥方とは仲が宜しいのでしょう?
「アイツを劉邦にってか? やだよ。アイツのあたしを見る目、なんか脂ぎってるんだぜ?
絶対あたしを愛人にしようとしてるんだ! 間違いない!」
ははは……母上を愛人にしたらしたで、絶対御当主は苦労しそうですね。
「それにな、賛は一応アイツの娘だからな。
才能があるなら、長男の代わりに……て考えもあるらしい。」
なんとまぁ。
賛ちゃん本物のお姫様でしたか。
しかし、御嫡男はそこまでなんですか?
「あぁ、ハッキリ言ってバカだ。経が自分よりバカだって言っていた。」
いやいや、経姐さんよりバカって……
経姐さんは面倒臭がりなだけでバカではないですよ。
「そうか? 全身筋肉のあたしより、経はバカだとおもうが?」
脳筋自覚あったんかいオカン。
あ~そうか。
「ん?」
母上は筋肉に累積された経験だけで生きてるのか。
「と言うと?」
母上の知識は筋肉による反射反応なんですよ。
だから決断が早がぶっ
「なるほどな、今みたいに、つい反射でお前に拳骨落とすようなもんか。
なるほどなるほど。
またひとつ筋肉が賢くなった。」
痛ってぇ~
ちょっと舌かんだ。
てか、筋肉が賢くなってたまるか!
「ハッハッハ! 愛の鞭だ許せ。で?」
は?
「賛はアイツの娘とはいえ、母親の身分が低いからな。
いきなりアイツの側とはならなくても、そうさな……遼西の書佐位には、なるだろうよ。」
ほうほう、先ずは学ばせ育てるつもりですか。
「だな。確か今は近くに盧植のじーさんが居たはずだから、そこで学ばせんだろうよ。」
お~! また有名所が出てきた!
史実でもそうなってるから、賛ちゃんは間違いなく公孫賛みたいだな。
しかし……
盧植殿ですか、お知り合いで?
「昔あたしの尻を触ってきたんで、殴り飛ばした」
母上ェ……
「な、なんだよ。だって、あのじーさんあたしの全力拳受けて、ぴんぴんしてるような妖怪だぞ?
殴った後何故か悦んでるし……」
よっぽど嫌な思い出なのか、オカンの言葉は段々尻すぼみになり、右拳を左手でさすっていた。
つか盧植さんは変態と言う紳士? だったようだ。
「で? 震、お前は?」
盧植さんの話はお腹一杯だったのだろう。
やや強引にオカンは話題を変えてきた。
「賛は血筋の運命とはいえ、立身したぞ。
震、お前はどうする? このまま此処で過ごすつもりか?」