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プロローグ2:現代(かこ)の話

過去の歴史を語る前に、現代むかしの話をしよう。


東京駅に向かう道の途中に、スーツをきた青年が独り深いため息を吐いていた。


短く小綺麗に刈られた短髪をガリガリと右手で掻いて、左手に開いた手帳に目を落とす。


歩みは重く、何か青年にとって良くないことが有ったのは一目で見てとれた。


やがて、パタンと手帳を閉じて、自らを鼓舞する様に顔を上げ、短く「フッ」と息を強くはく。


心機一転と足を前に踏み出そうとした。


その時だった。


よこの小路から誰かが、叫び声を上げた。



「ん?」



声のした方に顔を向けると、《パン!》 と乾いた音がした後、身体を押された。

青年の体は本能的に倒れまいと、バランスをとろうとしたがダメだった。


何かが抜け落ちていくように、堪えられずに崩れるように膝を付いてしまった。



(あれ?)



声を出そうとして、出せなかった。

代わりに出たのは、液体だった。

唾液でも胃液でもない。この鉄の様な臭いは血液だと、直ぐにわかったが、何で血液が口から出てくるのかが解らなかった。


やがてもう一度《パン!》 と乾いた音がして青年の意識は闇に溶けて消えていった。




※※※




釘沼は必死に走っていた。


10分前までは中国系マフィアとの麻薬取引で稼いだ大金を持って帰り、オヤッサンや姐さん他、組員全員で祝杯をあげる気でいたのだ。

だが、それが一瞬にして変わった。


どうやら誰かが麻取りにマークされていたようだ。


スーツ姿の刑事や警官が入り口を全て塞いで突入してきた。


思わず腰に差していたトカレフを抜いて、目の前の警官の腹に向けて撃ってしまった。


パン! と軽い破裂音がすると、目の前の警官は前のめりに倒れ、他の警官は物陰に隠れて拳銃を此方に向けてきた。


逆にマフィアや組員達は弾かれた様に走りだし、警官に向けて発砲しはじめた。



「ハハ、まるで昭和の刑事ドラマみてぇじゃねぇか」



他の奴等が気を引いてる内に、二階から屋上に登っていく。


下に包囲を敷いていても、屋上はまだ行けると見たからだ。

金が入ったトランクを片手に階段を走り、屋上に出る。


ここいらはそれほど高いビルはない。

大体がこのビルと同じ高さのビルだ。



「クカカカ、頭上がお留守だぜワン公」



周りのビルの屋上には誰も居なかった。

チャンスだ!


釘沼はその光景に笑みを隠せなかった。


隣のビルに向かって走り出したその時



ババババババ



背後から空気を無理矢理切り裂いているような羽音が、突風と共に近付いてきた。


思わず後ろを振り返り、確認してしまう。


巨大なプロペラで轟音を響かせ、ヘリコプターが天空から降りてきて、ハッチを開きスーツ姿の刑事が、拡声器片手に出てきた。


『くぎぬまぁぁ! お前は完全に包囲されているぅ! 大人しくたぁいほされろぉぉ!』



何とも迫力のある声だ。

これではどっちがヤクザかわからない。

しかし、やはり日本の警察は優秀だった。



「チッ……だが、諦めねぇよ。」



釘沼は踵を返し走り出した。


隣のビルに飛び移り、必死に駆けた。


息は最早絶え絶えだ。

どういうルートで逃げたのかもあやふやだ。

ただ捕まりたくない一心で逃げていた。

細い道に入り、追ってくる警官やヘリコプターを撒いて、必死に走る。



(ここはどこだ)



既に自分が何処にいるのか把握できていない釘沼は、現在地を確認するため、細い路から大通りに出ることにした。


すると、進行方向にスーツ姿の男が立っていた。



(っ! デカか!)



この時釘沼は冷静な判断力を失っていた。

目の前にいる青年を警察と間違えてしまったのだ。

更に、釘沼はただ逃げる事だけ考えていた。

他は何も考えてなかった。

例え反射的に、トランクを持つ手の反対、右手を青年に向けたとしても……

ただ、逃げるために。

その結果が奇妙な運命の扉だとも知らずに



乾いた銃声が、2度響いた。





※※※



秋方麗華は携帯の通話を切り、忌まわしげにベッドに放り捨てた。

今しがた釘沼を張らせていた組員から、取引の失敗と釘沼の逮捕の報告を受けた。



「やってくれたねぇ、能無しのチンピラが……

しかも堅気を殺っちまっただ?

クソが! ウチの看板に泥を塗るつもりかい!?

だからアタシは反対したんだよ。

あんなバカを組に入れるのはね!」



親指の爪を噛みながら、正面のソファに座る男にイライラとした気持ちをぶつける。



「あんなバカでも使い方しだいだろ。

それにまだ盃は交わしちゃぁいねぇ。

いざとなれば、トカゲの尻尾切りで何とかならぁ。」



優雅に手にしたワイングラスを傾ける男……秋方邦明。


広域指定暴力団秋方組


武闘派の構成員を邦明が


知能派の構成員を麗華が率いて、麻薬売買、詐欺、暗殺、テロなど

あらゆる犯罪を、あらゆる手口で網羅し、対抗勢力を非情で非道な手段をもって排除し、今や関東最大の暴力団にまでなった組織だ。


そして、その組織のトップこそ、この男……秋方邦明だ。



「今まで通りさ……表のお前が煙にまき、裏の俺が力で黙らせる。なぁんも変わらねぇ。」



優雅に、グラスから滑り落ちるワインを、コクリと喉を通し楽しむ。

その仕種はどこか暗く爬虫類を思わせた。



「……そうも行かないみたいだよ。」



「なに?」



「今回の取引、動いたのは麻取りや組対だけじゃ無く、公安まで動いているんだよ。」



ここに来て邦明は、初めて優雅な余裕を崩し動揺を顕にした。



「公安だと? 何故」




「あのクソのトカレフだよ。

あのバカ、態々中東から仕入れやがったのさ……」



苦々しく吐き捨てると、ドスンとベッドに豪快に腰をおろした麗華。



「なるほど、あの組織か。

足がつくと、間違いなく俺に来るな。麗華、お前が正しかったな。

釘沼には尻尾ではなく、人形になってもらおうか。」



クククと暗い笑い声が邦明からこぼれる。



「先生方の力を使うのかい。

はっ! 日本も終わってるね。」



「だからこそ、俺らみたいな悪党が存在できるのだろ?」



「違いないねぇ」



暗く笑い合う二人。

夜の闇は更に深くなっていく。



※※※



様々な思惑や運命が絡み合い、様々未来が産まれてゆくが、現代かこの話はここまでにしよう。


何故なら、物語りは大昔いまから始まるのだから。



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