表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と狼  作者: トウリン
すれちがい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/46

エピローグ

「あの子たち、帰っていったわよ」

 優子ゆうこは電話の向こうの親友にそう伝えた。受話器から、親友――美恵みえの笑い声が響いてくる。


「まったく、世話が焼けるよねぇ。まぁ、どちらも鈍いというか、何というか」

「ふふ。でもね、あの子、彼の前なら泣けるのね。目も鼻も真っ赤で、可愛かった」

 優子はその時のもえの顔を思い出して、微笑んだ。


 誰かの為ではなく、自分の為に泣く彼女を見たのは、初めてだったから。


 けれども、その笑みがふと濁る。

「私、彼にあの子の母親の名前を教えてしまったわ」

「あの、逃げたっていう?」

「ええ……」

 別れ際、萌には内緒で、一美かずよしにこっそりとメモを渡したのだ。


 あれは正しいことだったのか、それとも正しくないことだったのか。


「まあ、いいんじゃないの? 今のご時勢、もしかすると探し当てるかもね」

「それは……あの子を傷つけることにならないかしら」

「そん時はそん時だって」

 懸念を声に滲ませた優子に、美恵はあっけらかんと言い放った。いつものことながら能天気な親友に、優子は苦笑する。


「私は、あの子の傷に触れまいとして、臆病になり過ぎたのかしら。傷付ける覚悟で、もっと踏み込むべきだったのかしら……?」

「優子さんはそれでいいんじゃない? だって、『お母さん』だもの。母親ってのは、子どもを大事に大事にくるみ込むもんだよ。イヤな役は、岩崎センセに任せておけばいいって。これから一生あの子と生きていくのは、彼なんだから。これからは、萌と一緒に荷物を抱えて歩くのは、彼なんだよ」

「そうね……もう、『おかあさん』がしゃしゃり出る年じゃないのよね。あの子も、巣立たなければならないんだわ」

 バトンタッチしなさいよ、と言った美恵に、優子は一抹の寂しさと共に呟いた。萌に互いに大事に想える相手ができたことは嬉しいのだけれども、子どもを手放す寂しさは、捨てきれない。


 自分の手を離れていく『わが子』が幸せになってくれることを、彼女は望んでやまなかった。


第二部はこれでおしまいです。

長くなったお話をここまで読んでくださった方、お気に入り登録してくださった方、評価を付けてくださった方、大変ありがとうございます。とても励みになります。

次の第三部で完結ですが、もう少しプロットを固めたら連載を開始します。近日中には再開できると思いますが……しばらくお待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ