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天使と狼  作者: トウリン
すれちがい

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14/46

プロローグ

第二部です。

今回は、萌視点、一美視点の両方で進行します。

 ふと、もえは目を開いた。


 部屋の灯りも、大きなテレビも点けっ放し。観ていた筈のDVDは終わっていて、メニュー画面に切り替わっていた。映画のテーマ曲の一部が、繰り返し繰り返し流れている。


 こうやって不意にうたた寝から目覚めた時、最初に目に入るのが知らない部屋の天井でも、いつの間にか、戸惑わなくなっていた。

 四月の上旬の夜はまだ涼しい筈だけれども、萌は心地良い温もりに包まれている。

 彼の力強い両腕に囲まれて、温かな胸に持たれかけて。

 彼のその広い胸に押し当てている左の耳は、自分のものとは速度の違う、ゆったりとした鼓動でくすぐられていた。

 こうやって彼を感じていると萌の心はとても安らいで、涙がこぼれそうになる。


 安らぎと――そして、不安と。


 幸せを知ると、同じだけの不安が押し寄せてくるのは何故なのだろう。

 彼は確かにここにいるのに、寂しさを拭いきれない。


(とても、とても、幸せなのに)


 小さい頃から、そうだった。

 慈しまれると、それを失う時の事を考えてしまう。誰かを愛おしく思うことは好きなのに、想いを返されると、それを受けとってもいいのだろうかと、思ってしまう。


 萌は小さく息をついた。

 時刻は、まだ二十一時を少し過ぎたくらいだ。明日は仕事だし、家に帰らないと。


 彼を起こさないように細心の注意を払って腕をどかして、萌は立ち上がる。そうして、彼の寝顔をジッと見つめた。


 少し前に、彼はここに一緒に住もうと言ってくれたことを思い出す。


 そう言われた時、とても嬉しかった。

 とても嬉しかったのに、頷けなかった。


 その時、彼は少し複雑な顔をして、「そうか」と答えただけだった。


 多分、その提案は、彼女のことを心配してくれたから、出たものなのだろう。


 それは判っていたけれど、でも、頷けなかった。


 萌は身体を屈めて、彼の耳元に囁きかける。睡眠学習で、彼女のその気持ちがしっかりと刻まれるように。


「わたしは、あなたのことが大好きです」


 そうして萌は、彼の部屋を後にした。


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