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無限地獄

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/07/24

 とある温かな家庭を想像してほしい。

 厳しくも優しい頼りになる父がいて、温かくて穏やかな母がいて、ペットの猫か犬がいて、そしてあなたがいる。

 そんな温かな世界。


 戦争なんてなくて。

 それどころか喧嘩もない。

 いや、およそ争いにつながる全てがない世界。


 なんでこんなに優しい世界があるのかといえば簡単な話だ。

 豊かだから。


 心も身体も。

 豊かであれば争う必要はない。

 そう。

 生き物は命を繋ぐために他の命と争うのだから。

 豊かで満ち足りていれば争いなど起こらないのだ。


「どうしたの?」

「おなかが空いたの」

「なら、ご飯を食べてきなさい」


 母に空腹を訴えたあなたは母に言われたとおりにご飯を食べる。


「ごめんね。ご飯食べるね」


 むんずとあなたは掴み、悲鳴をあげるそれを口に入れる。

 まるで果汁や肉汁が漏れ出るような心地よい音。

 それを聞きながら幸福な味にあなたは満たされる。


 こんな世界を成立させている最大の功労者。

 それがご飯と呼ばれる『彼ら』である。

『彼ら』はとても不思議な生き物で何をされても死なないのだ。

 いや、正確には食べられて死んでいるのだが、奇妙なことに死んだ瞬間にまたその場に生まれるのだ。


 怯えた顔で、恐怖に震えながら。

 何度も死の恐怖を味わっているのにその度に生まれ、再生され、また食される。

 その繰り返し――。


 哀れではあるが『彼ら』によって闘う必要のない豊かな時代がもたらされているのだ。

 だから皆々が『彼ら』に感謝を忘れない。


「ねえ、お父さん」

「なんだい?」

「ご飯は何で何度も蘇るの?」


 子供なら誰でも抱く『当たり前の質問』をあなたは父にした。

 父は微笑んで答える。


「無限地獄に堕ちているからだよ」

「無限地獄?」

「要するに悪いことをしたから苦しんでいるんだ」

「悪いこと?」


 豊かな場所。

 豊かな時代に生まれたあなたには『悪いこと』が何なのか分からない。

 実に幸せなことだ。

 それを知ってか知らずか首を傾げるあなたに父は微笑む。


「まぁ、今となってはどうでもよい話さ。さぁ、ペットにご飯をあげなさい」


 そう言われてあなたは怪訝な顔をしながら『彼ら』を掴んでバラして最愛のペットへ食べさせた。


 無限地獄の意味を考えながら。

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― 新着の感想 ―
牛の乳くらいしか、飲めなくなるやつ!! 現実には植物、案外強かで戦略的で、虫や動物、人間を利用してるようにも、思えますよね。 ほーら美味しいから私を育ててごらん、 上手に育てたら、収穫出来るよ、って…
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