第43話:海からの挑戦状。世界一の料理人は誰だ?
魔王城での「人類存亡をかけたフルコース」から数週間。 世界には平和が戻り、私の店『キッチン・アトリエ』は、今日も今日とて戦場のような忙しさだった。
「ルネさん! 『魔王ハンバーグ定食』3つ、入りました!」 「はいよ! キュイジー、付け合わせのポテト!」 「イエス・シェフ! 揚げ加減は完璧です!」 「ルネさぁん、パフェのアイスが足りません~! 追加で冷やしますぅ!」
店内は満席。 冒険者、貴族、そしてお忍びの魔族たちが肩を並べて食事を楽しんでいる。 平和だ。実に平和で、儲かっている。
だが、厨房でフライパンを振りながら、私はふと溜息をついた。
(……飽きた)
贅沢な悩みだとは思う。 でも、ここ最近のメニューは「肉」と「洋食」ばかり。 魔王を唸らせたハンバーグも、ガルドーさんを復活させたカツ丼も美味しいけれど……私の日本人としてのDNAが、別のモノを求めて叫んでいるのだ。
――新鮮な、**『魚』**が食べたい。
この王国は内陸にあるため、手に入る魚といえば川魚か、塩漬けにされた干物ばかり。 プリップリの刺身。 脂の乗った焼き魚。 そして何より、酢飯とネタが奏でるハーモニー……『寿司』。
「ああ……醤油はあるのに、肝心の刺身がないなんて……生殺しよ……」
私が遠い目をしていた、その時だった。
バサササッ!!
開け放たれた窓から、一羽の巨大な鳥が飛び込んできた。 カモメだ。それも、翼長2メートルはある魔獣『伝書オオカモメ』だ。
「うわっ!? 焼き鳥か!?」 ガルドーさんがフライパン(盾)を構える。
「待って! 足に何か付いてるわ」
カモメは私の目の前に着地すると、濡れた革の筒を吐き出した。 磯の香りが漂う。 私は筒を開け、中の羊皮紙を取り出した。
『親愛なる陸の料理人たちへ。 来る満月の夜、海洋帝国グラン・メールにて、4年に一度の祭典**【世界美食大会】**を開催する』
差出人は、海の向こうの大国、グラン・メール帝国の皇帝だった。
「世界……美食大会?」
興味なさげに呟く私に、横から覗き込んだキュイジーが素っ頓狂な声を上げた。
「し、知らないのですかルネ殿!? これは世界中の料理人が憧れる、最高峰の料理バトルですよ! 優勝すれば『世界一』の称号が得られるんです!」
「称号? そんなのどうでもいいわよ。食べられないし」
私は羊皮紙をポイッと捨てようとした。 だが、その末尾に書かれた『優勝賞品』の項目を見た瞬間、私の手が止まった。
【優勝賞品】 1.国宝魔道具『海神の三叉槍』 2.グラン・メール帝国における、全魚介類の『永年優先取引権』
私の目が釘付けになった。
「……キュイジー。この『三叉槍』って何?」 「ええと、確か……刺した食材の鮮度を永遠に保ち、熟成を自在に操ることができる伝説の食器だったはずですが……」
鮮度保持。熟成コントロール。 つまり、**「いつでも最高の状態の刺身が食べられる」**ということじゃないか! さらに、優先取引権? あの海洋大国で採れる、エビ、カニ、マグロ、ウニ……それらを独占できる権利だと!?
「……行くわよ」 「はい?」 「店は臨時休業! 荷物をまとめなさい!」
私はエプロンを脱ぎ捨て、厨房の台に登って宣言した。
「目指すは海! ターゲットは新鮮な魚介類! その大会とやらで優勝して、世界の魚を全部私の胃袋に収めてやるのよ!!」
「おおーっ!!」
真っ先に歓声を上げたのは、カウンターでハンバーガーを食べていた勇者カイトだった。
「海か! 海といえばビーチ! 水着! そしてシーフード! 俺も行くぞ姉さん! 護衛は任せろ!」
「俺も行くぜ。……正直、最近肉ばっかりで胃がもたれてたんだ」 ガルドーさんも乗り気だ。
「えぇぇ……海ですかぁ? 潮風で髪が痛むんですけどぉ……」 ミシェルカだけが嫌そうな顔をしているが、却下だ。 魚を運ぶためには、彼女(人間冷蔵庫)が絶対に必要不可欠なのだから。
「さあ、出発よ! 待ってなさい、海の幸! 私が美味しく料理してあげるから!」
こうして、魔王をも餌付けした最強の料理人一行は、次なる食材を求めて、広大な海へと旅立つことになった。 まさかその道中で、伝説の巨大イカと「たこ焼きバトル」をすることになるとは、まだ知らずに。




