第4話:ステータスオープン! 器用さだけがカンストしていた
「……はぁ、疲れた」
屋台の片付けを終え、私は近くのベンチにへたり込んだ。 あれから用意したオーク肉は瞬く間に完売。追加で買い取った肉も全て揚げ尽くした。 私の手元には、ずっしりと重い革袋がある。 中に入っているのは、銅貨と銀貨の山。日本円にして……ざっと十万円くらいか。たった数時間の屋台売りにしては上出来すぎる。
「おい嬢ちゃん、大丈夫か? 顔が赤いぞ」
心配そうに覗き込んでくるのは、あのスキンヘッドのガルドーだ。 彼は結局、最後まで私の「ボディーガード兼・売り子」をしてくれた。もちろん、報酬は揚げたての唐揚げ3個だ。
「平気よ。ただ、ちょっと体が熱いの。なんだか、体の内側から力が湧いてくるような……」
風邪の熱っぽさとは違う。 全身の血管に温かいスープが流れているような、不思議な高揚感があるのだ。 特に、指先の感覚が鋭敏になっている気がする。今なら、豆腐の上で外科手術ができそうなくらいだ。
「そりゃあ『レベルアップ』したんだろ」 「レベルアップ?」 「ああ。あれだけの数の客を捌いて、オーク肉(魔物素材)を調理したんだ。経験値が入らねぇわけがねぇ」
ガルドーは当たり前のように言った。 そうか、この世界は本当にRPGみたいな仕組みなのか。
「自分のステータス、見たことねぇのか? 心の中で強く『ステータス・オープン』って念じてみな」
私は言われた通り、目を閉じて念じた。 (ステータス、オープン)
――フォン。
脳裏に、半透明の青いウィンドウが浮かび上がった。
【名前】 ルネ・ヴィオラ(12歳) 【職業】 料理人(Lv.8) 【称号】 転生者、異食の探求者
【HP(体力)】 15 / 15 (一般成人男性の平均:100) 【MP(魔力)】 50 / 50
【基本能力値】
筋力: 3 (ゴミ)
耐久: 4 (紙)
敏捷: 12 (子供)
魔力: 15 (凡人)
器用: 999 (限界突破・測定不能)
運 : 50
【ユニークスキル】
《神の舌》:全ての食材の味、鮮度、最適な調理法を瞬時に解析する。毒物の判別も可能。
《前世の記憶》:特定の知識にアクセスできる。
【習得スキル】
《解体調理 Lv.5》:刃物を使った際、食材の繊維・関節・急所が赤いラインで見える。
《最適加熱 Lv.3》:食材の中心温度が数値で見える。火加減を1度単位で調整可能。
《高速千切り Lv.Max》:目にも止まらぬ速さで刻む。残像が発生する。
《毒耐性(微)》:変なものを食べてもお腹を壊しにくくなる。
「……なにこれ」
私は思わず声に出してツッコミを入れた。 偏りすぎだろ。 HPと筋力がスライム以下なのは自覚していたが、**『器用:999』**ってなんだ。バグか? いや、前世で何十年も包丁を握り続け、コンマ数ミリの桂剥きを極めた結果が、スキルとして反映されたのかもしれない。
「どうだ? 新しいスキルは生えたか?」
ガルドーが興味津々で聞いてくる。 私はため息交じりに答えた。
「ええ……なんか、『解体調理』とか『最適加熱』とか……」 「はぁ!? 『解体』だって!?」
ガルドーが素っ頓狂な声を上げた。
「おいおい、マジかよ! 『解体』スキルは、ベテランのハンターでも持ってる奴は少ねぇぞ! それがあれば、ドラゴンの鱗だってバターみたいに剥げるし、レア素材を無傷で取り出せる!」 「へぇ。カニの殻剥くのに便利そうね」 「カニ……? お前、発想が平和ボケしてんな……」
ガルドーは呆れているが、私にとっては朗報だ。 『最適加熱』があれば、オーブンのないこの世界でも、完璧なローストビーフが焼ける。 『解体調理』があれば、硬い魔物の肉でも下処理が楽になる。 つまり、**「もっと美味しいものが作れる」**ということだ。
私は自分の小さな掌を握りしめた。
「ふふ……ふふふ。勝ったわ」 「何にだよ」 「この世界の『食文化』によ!」
私はベンチから立ち上がった。 レベルアップの恩恵で、体のだるさは消え失せ、むしろ早く次の料理を作りたくてウズウズしている。
だが、その前にやるべきことがある。 孤児院の厨房は狭すぎるし、あの婆さんに邪魔される。 私には、私の城が必要だ。
「ねえ、ガルドーさん」 「あん?」 「このお金で借りられる、手頃な物件知らない? ボロくてもいいから、厨房が広くて、火が使えるところ」
ガルドーは顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ……この街のメインストリートは家賃が高いぞ。だがあそこなら……いや、あそこは『出る』からな……」 「出る?」 「幽霊屋敷だ。元は飯屋だったんだが、夜な夜な調理場の包丁が勝手に浮くとか、皿が飛ぶとかいう噂で潰れた廃屋がある。そこならタダ同然で借りられるだろうが……」
幽霊? 私は鼻で笑った。
「好都合ね。その幽霊が皿洗いをしてくれるなら、時給を払って雇うまでよ」 「……お前、本当に12歳か?」
こうして私は、常識外れのステータスと、怖いもの知らずの食欲を武器に、自分の店を持つための一歩を踏み出したのだった。




