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第31話:偏食エルフと、森の恵みの『マヨネーズ革命』

目的は「甘味(砂糖)」と「果物」。  私たちは、大陸一の森林地帯にある『エルフの里』を訪れていた。


「……綺麗だけど、なんか静かすぎない?」


 巨大な樹木の上に作られた幻想的な家々。  しかし、行き交うエルフたちは皆、幽霊のように色が白く、折れそうなほど細かった。  美形ではあるが、頬がこけて生気がない。


「ようこそ、野蛮な……失礼、人間の皆様」


 出迎えたのは、里の長老の息子だという青年エルフ、シルバだった。  彼は私たちが持ち込んだ食料(干し肉)を見て、露骨に顔をしかめた。


「我が里では、動物の死骸(肉)を食すことは禁忌です。食事は森の恵みである野菜と果物のみ。心しておいてください」


 ◆


 案内された歓迎の宴。  テーブルに並べられたのは、山盛りの葉っぱ、生の根菜、そして木の実だった。  ドレッシングも塩もない。正真正銘、ただの「草」だ。


「……俺は青虫じゃねぇぞ」  ガルドーさんが小声でボヤく。  「力が出ねぇ。筋肉がしぼんでいく気がする……」


 シルバは得意げに生のセロリを齧った。  「これこそが最も高貴な食事。大地のマナを直接取り込むことで、我々は長寿を保つのです」  (いや、長生きしてもそのガリガリじゃ人生楽しくないでしょ……)


 私はため息をつき、懐から小瓶を取り出した。  中身は、私の相棒『ポム(マヨネーズ・スライム)』から採取した、新鮮なマヨネーズだ。


「ねえ、シルバさん。その野菜、もっと美味しくなるわよ」 「なんです、その白いドロドロした液体は? 汚らわしい」 「いいから、騙されたと思ってそのキュウリにつけてみて」


 私は強引に、彼の持つキュウリの先端にマヨネーズをたっぷりつけた。  シルバは嫌そうな顔で、恐る恐る口に入れた。


 シャクッ。  瑞々しい音が響く。


「……ん?」


 シルバの動きが止まった。  咀嚼する。一回、二回。


 キュウリ特有の青臭さが消えている?  いや、それどころか。  酸味が唾液を分泌させ、卵のまろやかなコクが野菜を包み込み、油分が濃厚な旨味となって舌に残る。  ただの水分補給だったキュウリが、立派な「おかず」に化けたのだ。


「……な、なんだこれはッ!?」


 シルバが叫んだ。


「美味い! なぜだ!? ただのキュウリなのに、肉料理のような満足感がある! 濃厚で、クリーミーで、なのに野菜の味を邪魔しない!」


 彼は次の野菜、トマトを手に取り、マヨネーズをドボンとつけた。  パクッ。


「甘い! トマトの酸味が消えて、フルーツのように甘く感じる!」


 それを見ていた他のエルフたちも、ざわつき始めた。  「長老の息子があんなにガツガツと……」「あの白いソースはなんだ?」


 私は瓶をテーブルの真ん中に置いた。


「さあ、みんなも試してみて。これを『マヨネーズ』と呼ぶわ。野菜の親友にして、カロリーの悪魔よ」


 一人の女性エルフが、恐る恐る人参スティックにつけて食べた。  「……! おいしい!」


 それを合図に、宴の席は修羅場と化した。


「私にもくれ!」 「ブロッコリーが……ブロッコリーがご馳走になったぞ!」 「止まらん! 無限に食える!」


 普段は小食なエルフたちが、山盛りの野菜を次々と平らげていく。  野菜嫌いの子供エルフまでもが、指についたマヨネーズを舐めながら「もっと!」と叫んでいる。  彼らに足りなかったのは、圧倒的な「脂質」と「旨味」だったのだ。


「ルネ殿……これは危険な魔法だ……」  シルバが口の周りを白くしながら、恍惚の表情で私を見た。  「野菜を食べる手が止まらない。我が里の野菜備蓄が尽きてしまうかもしれん……」


「大丈夫。その代わり、あんたたちの里で採れる『果物』と『樹液シロップ』を分けてちょうだい」


 こうして、エルフの里に「マヨネーズ中毒」という新たな病(?)が蔓延することになった。  後日、少しふっくらとして健康的になったエルフたちが、「マヨネーズの原料(卵と油)」を求めて、ニワトリの飼育とオリーブ栽培を始めるという、里始まって以来の農業革命が起きるのだが……それは私が去った後の話だ。


 私は手に入れた最高級のフルーツとメープルシロップを抱え、次なる目的地へと向かう。  目指すは、甘味の王様『プリン』と『パフェ』の完成だ!

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