第31話:偏食エルフと、森の恵みの『マヨネーズ革命』
目的は「甘味(砂糖)」と「果物」。 私たちは、大陸一の森林地帯にある『エルフの里』を訪れていた。
「……綺麗だけど、なんか静かすぎない?」
巨大な樹木の上に作られた幻想的な家々。 しかし、行き交うエルフたちは皆、幽霊のように色が白く、折れそうなほど細かった。 美形ではあるが、頬がこけて生気がない。
「ようこそ、野蛮な……失礼、人間の皆様」
出迎えたのは、里の長老の息子だという青年エルフ、シルバだった。 彼は私たちが持ち込んだ食料(干し肉)を見て、露骨に顔をしかめた。
「我が里では、動物の死骸(肉)を食すことは禁忌です。食事は森の恵みである野菜と果物のみ。心しておいてください」
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案内された歓迎の宴。 テーブルに並べられたのは、山盛りの葉っぱ、生の根菜、そして木の実だった。 ドレッシングも塩もない。正真正銘、ただの「草」だ。
「……俺は青虫じゃねぇぞ」 ガルドーさんが小声でボヤく。 「力が出ねぇ。筋肉がしぼんでいく気がする……」
シルバは得意げに生のセロリを齧った。 「これこそが最も高貴な食事。大地のマナを直接取り込むことで、我々は長寿を保つのです」 (いや、長生きしてもそのガリガリじゃ人生楽しくないでしょ……)
私はため息をつき、懐から小瓶を取り出した。 中身は、私の相棒『ポム(マヨネーズ・スライム)』から採取した、新鮮なマヨネーズだ。
「ねえ、シルバさん。その野菜、もっと美味しくなるわよ」 「なんです、その白いドロドロした液体は? 汚らわしい」 「いいから、騙されたと思ってそのキュウリにつけてみて」
私は強引に、彼の持つキュウリの先端にマヨネーズをたっぷりつけた。 シルバは嫌そうな顔で、恐る恐る口に入れた。
シャクッ。 瑞々しい音が響く。
「……ん?」
シルバの動きが止まった。 咀嚼する。一回、二回。
キュウリ特有の青臭さが消えている? いや、それどころか。 酸味が唾液を分泌させ、卵のまろやかなコクが野菜を包み込み、油分が濃厚な旨味となって舌に残る。 ただの水分補給だったキュウリが、立派な「おかず」に化けたのだ。
「……な、なんだこれはッ!?」
シルバが叫んだ。
「美味い! なぜだ!? ただのキュウリなのに、肉料理のような満足感がある! 濃厚で、クリーミーで、なのに野菜の味を邪魔しない!」
彼は次の野菜、トマトを手に取り、マヨネーズをドボンとつけた。 パクッ。
「甘い! トマトの酸味が消えて、フルーツのように甘く感じる!」
それを見ていた他のエルフたちも、ざわつき始めた。 「長老の息子があんなにガツガツと……」「あの白いソースはなんだ?」
私は瓶をテーブルの真ん中に置いた。
「さあ、みんなも試してみて。これを『マヨネーズ』と呼ぶわ。野菜の親友にして、カロリーの悪魔よ」
一人の女性エルフが、恐る恐る人参スティックにつけて食べた。 「……! おいしい!」
それを合図に、宴の席は修羅場と化した。
「私にもくれ!」 「ブロッコリーが……ブロッコリーがご馳走になったぞ!」 「止まらん! 無限に食える!」
普段は小食なエルフたちが、山盛りの野菜を次々と平らげていく。 野菜嫌いの子供エルフまでもが、指についたマヨネーズを舐めながら「もっと!」と叫んでいる。 彼らに足りなかったのは、圧倒的な「脂質」と「旨味」だったのだ。
「ルネ殿……これは危険な魔法だ……」 シルバが口の周りを白くしながら、恍惚の表情で私を見た。 「野菜を食べる手が止まらない。我が里の野菜備蓄が尽きてしまうかもしれん……」
「大丈夫。その代わり、あんたたちの里で採れる『果物』と『樹液』を分けてちょうだい」
こうして、エルフの里に「マヨネーズ中毒」という新たな病(?)が蔓延することになった。 後日、少しふっくらとして健康的になったエルフたちが、「マヨネーズの原料(卵と油)」を求めて、ニワトリの飼育とオリーブ栽培を始めるという、里始まって以来の農業革命が起きるのだが……それは私が去った後の話だ。
私は手に入れた最高級のフルーツとメープルシロップを抱え、次なる目的地へと向かう。 目指すは、甘味の王様『プリン』と『パフェ』の完成だ!




