第30話:営業妨害!? ポーションギルドの陰謀と『薬膳サムゲタン』
『キッチン・アトリエ・ダンジョン出張所』の大盛況は、ある者たちの逆鱗に触れていた。 この国の医療と薬品を独占する既得権益の塊、**『ポーションギルド』**だ。
「そこまでだ、小娘!」
昼時の行列に割って入ってきたのは、金ピカの服を着た肥満体の男。ポーションギルドの長、ガメルだ。 後ろには、王国の衛兵を引き連れている。
「貴様の店は、本日をもって営業停止とする!」 「はぁ? 理由は何よ」
私が鍋の灰汁を取りながら睨むと、ガメルは勝ち誇った顔で言った。
「薬事法違反だ! 貴様の料理を食べた冒険者が、異常な身体強化を発現したそうだな? ただの食事でそのような効果が出るはずがない! 間違いなく、違法な興奮剤(ドーピング薬)や魔族の秘薬を混入しているに違いない!」
周囲の客たちがざわめく。 「言われてみれば、疲れが取れすぎる……」「まさか、ヤバイ薬が?」
なるほど。 自分たちの不味いポーションが売れないからって、言いがかりをつけて潰しに来たわけか。
「へぇ。私の料理が『毒』だと言うのね?」 「そうだ! 今すぐ店を畳んで投獄されろ!」 「じゃあ、証明してみなさいよ」
私は包丁をまな板に突き立てた。
「あんたのポーションと、私の料理。どっちが『体に良くて安全か』、ここで公衆の面前で勝負しましょう。もし私が負けたら、店でも命でも差し出すわ」
ガメルは鼻で笑った。 「面白い! 錬金術の結晶であるポーションに、平民の残飯が勝てると思うてか! その勝負、受けて立つ!」
◆
広場に即席のステージが組まれた。 審査員は、通りすがりの「万年腰痛持ちのおじいちゃん」と「顔色の悪い貧血のお姉さん」だ。
「まずは我がギルドの最高傑作、『ハイ・ポーション』だ!」
ガメルが緑色の液体が入った瓶を差し出す。 被験者二人が渋い顔で飲み干す。
「……に、苦い」 「うぇっ……泥水みたい……」 「効果はどうだ!?」 「う、うーん……まあ、少し腰が軽くなったような……?」
効果はある。だが、即効性は薄いし、何より精神的なダメージ(不味さ)がデカい。
「次は私の番ね」
私は、土鍋を火にかけた。 今回作るのは、薬膳料理の王様**『サムゲタン(参鶏湯)』**だ。
主役は、ダンジョン産の『コカトリス(鶏)』一羽まるごと。 そのお腹の中に、 ・もち米 ・乾燥ナツメ(血を補う) ・松の実(滋養強壮) ・ニンニク ・そして、主役の**『マンドラゴラの根(高麗人参の代わり)』** を詰め込み、口を楊枝で閉じる。
これを、水だけで長時間煮込む。 味付けは少量の塩のみ。
「マ、マンドラゴラだと!? あんな叫び声を上げる毒草を料理に使う気か!?」 ガメルが叫ぶ。
「下処理(悲鳴を聞かずに引っこ抜いて乾燥)すれば、ただの滋養強壮剤よ」
グツグツグツ……。 土鍋から、優しく、それでいて力強い香りが漂い始める。 鶏の旨味が全て溶け出した白濁スープ。 薬草の香りが、不思議と食欲をそそる。
「はい、召し上がれ」
熱々のスープを、被験者たちに差し出す。 二人は恐る恐る口をつけた。
――ズズッ。
「……ぁあ……」
ため息が漏れた。 苦くない。臭くない。 鶏の濃厚な出汁が、五臓六腑に染み渡っていく。 箸を入れると、鶏肉はホロホロと骨から外れ、中のもち米はスープを吸ってトロトロだ。
「美味しい……! 体がポカポカするわ!」 「おお! 腰の痛みが、雪解けのように消えていくぞ!」
おじいちゃんが立ち上がり、その場で軽やかにジャンプした。 お姉さんの顔色も、瞬く間にバラ色に変わる。
「な、なんだと!? ポーションより効いているだと!?」 ガメルが狼狽える。
「当たり前でしょ。あんたの薬は『痛みを麻痺させる』だけ。私の料理は『体の治癒力を底上げする』のよ。医食同源。食べることは、生きることなの!」
観衆から割れんばかりの拍手が巻き起こった。 「ルネちゃん最高!」「ポーションなんてもういらねぇ!」
「バ、バカな……認めん! イカサマだ! 私も毒味してやる!」
ガメルは私の鍋を奪い、直接口をつけた。 その瞬間。
「……美味いッ!!!」
ガメルは鍋を抱えて飲み干した。 肥満体の彼の体から、ドス黒い汗(老廃物)が噴き出し、体が軽くなっていく。
「なんだこの優しい味は……! 母の温もりを感じる……! 私の汚れた心が洗われていくようだぁぁ!!」
ガメルはその場に崩れ落ち、号泣した。
「……負けた。完敗だ。ポーションなど、ただの苦い水だったんや……」
こうして、ポーションギルドの陰謀は、圧倒的な「味の暴力」によって粉砕された。 後日、改心したガメルは、 「良薬は口に美味し」 をモットーにした『薬膳カフェ』を開き、私の店の常連兼ライバル(?)として再出発することになる。
私のバフ飯は、ついに公的にも「安全で最強」の認定を受けたのだ。




