第29話:攻略最前線! 『バフ飯(めし)』屋台、はじめました
王都での誘拐騒動(という名の食材獲得ツアー)から数日。 私は王都の北にある、国内屈指の高難易度ダンジョン**『試練の塔』**の入り口に来ていた。
目的は、この塔の20階層に出現する『ゴールデン・カニ(防御力が高い美味い蟹)』の捕獲だ。 だが、現場の空気はどんよりとしていた。
「くそっ……また火力不足で撤退かよ」 「ポーションが足りねぇ。一本銀貨5枚だぞ? 赤字だ」
塔の前広場には、傷ついた冒険者たちが座り込み、不味そうな色の回復薬を渋い顔で啜っている。 この塔の魔物は異常に硬く、長期戦になりがちで、スタミナとマナの消耗が激しいらしい。
「……ビジネスの匂いがするわね」
私はニヤリと笑った。 私の【食材鑑定】スキルは、食材の味だけでなく、その**『効能』**も見抜くことができる。 この世界の料理人は「味」しか気にしないが、特定の食材と調理法を組み合わせれば、ポーション以上の効果が出せるのだ。
「ガルドーさん、屋台を展開して! 今からここで商売をするわよ!」 「えぇ……俺たちカニを捕りに来たんじゃ……」 「カニは向こうから(金を払って)来るのよ!」
◆
数十分後。 殺伐としたダンジョン前に、場違いなほどの香ばしい匂いが漂い始めた。
「へいらっしゃい! 食べて強くなる『戦う弁当』はいかが!」
私が看板を掲げると、疲れ切った戦士たちが怪訝な顔で寄ってきた。
「なんだ嬢ちゃん、飯屋か? 悪いが俺たちは今、胃に重いもんは食えねぇんだ」 「そうそう、これからボス戦だし……」
「あら、そう。ボス戦なら、なおさらウチの飯が必要よ」
私は大鍋の蓋を開けた。 中に入っているのは、真っ赤なタレで煮込まれた角切りの肉。
メニュー①:【闘牛肉の激辛スタミナ煮込み】 効果:『攻撃力(STR)+20%』『恐怖耐性・中』付与
「この肉には『火炎草(唐辛子の一種)』を大量に使ってる。食べれば体が芯から燃え上がって、剣を振る力が二割増しになるわよ」
さらに、隣の蒸し器を開ける。
メニュー②:【鋼鉄亀の濃厚コラーゲンスープ】 効果:『防御力(VIT)+20%』『HP自動回復・小』付与
「こっちはタンク職向け。甲羅ごと煮出したスープよ。飲めば肌が硬化して、小鬼の剣くらいなら蚊に刺された程度になるわ」
冒険者たちは顔を見合わせた。 「攻撃力二割増し? ポーションでもそんな効果ねぇぞ……」 「でも、この匂い……めちゃくちゃ美味そうだ」
そこへ、一人の痩せた剣士が進み出た。 「……くれ。どうせこのままじゃ勝てないんだ。ヤケ食いだ」
彼は『激辛スタミナ煮込み』を受け取り、一口食べた。
ガツガツッ! 辛さと肉の旨味に目を見開き、一瞬で完食する。 すると――。
ドクンッ!!
剣士の体から、赤いオーラのような湯気が立ち上った。 筋肉がパンプアップし、顔つきが野獣のように変わる。
「う、うおおおおッ!? なんだこれ!? 力が……力が湧いてくるぞぉぉ!!」
彼は剣を抜き、素振りを一閃。 ヒュンッ!! 空気を切り裂く鋭い音が響いた。
「軽い! 剣が羽のようだ! これならいける! ボスの首をへし折れるぞ!!」 剣士は雄叫びを上げて塔へダッシュしていった。
それを見た周囲の冒険者たちが、色めき立つ。 「おい見たか!? あいつのあの動き!」 「マジかよ、飯食っただけで!?」
私はお玉をカンカンと鳴らした。
「さあ、早い者勝ちよ! 今なら『魔法使い用・知力の上がる甘味セット(MP回復速度アップ)』もつけて、お値段据え置き!」
次の瞬間、屋台の前は戦場と化した。
「くれ! 俺にスタミナ煮込みをくれぇぇ!」 「私はスープだ! 盾役なんだよ!」 「甘味! 甘味を私の脳にぶち込んでくれぇぇ!」
銀貨が飛び交い、料理が飛ぶように売れていく。 ポーション売りの商人が「えっ、あ、あの……ウチの薬は……?」と涙目で立ち尽くす横で、私の『バフ飯』屋台は、ダンジョン攻略の必須ポイントとして定着してしまった。
◆
数時間後。 塔から帰還した冒険者たちが、戦利品(魔石やレア素材)を抱えて報告に来た。
「勝った……! あのクソ硬いボスを瞬殺できた!」 「ありがとう飯屋の嬢ちゃん! おかげで生き残れた!」 「これ、とれたての『ゴールデン・カニ』だ! チップ代わりに受け取ってくれ!」
私の目の前には、目的だったカニだけでなく、様々な高級食材が山と積まれていた。 自分では一歩もダンジョンに入らず、料理を振る舞うだけで素材が集まる。 これぞ、商売の極意。
「まいどあり。明日は『素早さ(AGI)アップのサンドイッチ』を用意してくるわね」
こうして、『キッチン・アトリエ・ダンジョン出張所』は、 「あそこの飯を食わずにボスに挑むのは自殺行為」 と言われるほどの伝説となり、後日、効果を妬んだ『ポーションギルド』から嫌がらせを受けるも、私の料理中毒になったSランク冒険者たちがギルドごと壊滅させるのは、また別の話だ。




