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第15話:三ツ星シェフの弟子入り? 炎と油の『黄金チャーハン』

決闘から数日後。  『キッチン・アトリエ』の開店前には、見慣れない光景が生まれていた。


「ルネ殿! 今日の仕込みですが、野菜の切り出し(ブリュノワーズ)は3ミリ角でよろしいですか!?」 「……だから、勝手に厨房に入らないでってば」


 純白のコックコートを身に包んだキュイジーが、なぜか当たり前のように厨房に立っていた。  三ツ星レストランのオーナーシェフが、場末の飯屋で玉ねぎを刻んでいる。シュールすぎる。


「何を仰る! 負けた以上、私は貴女の技術を盗むまでは帰りません! ……それに、ここの『賄い(まかない)』が美味いという噂を聞きまして」 「本音が漏れてるわよ」


 私は呆れつつも、彼を追い出すのを諦めた。  まあ、タダで優秀な下働き(しかも三ツ星級)が使えるなら悪くない。幽霊スタッフ(包丁くん)も、ライバル出現に燃えているのか、いつもより高速でジャガイモの皮を剥いている。


「じゃあキュイジー、今日のお昼の『賄い』、あんたが作ってみる?」 「ほう! 私に任せてよろしいのですか?」


 キュイジーの目が輝いた。


「フフフ……見ていなさい。貴女の使うB級食材(ダンジョン素材)を使って、私が至高の芸術品スペシャリテを作ってみせましょう」


 ◆


 三十分後。  テーブルに並べられたのは、美しく盛り付けられたリゾットのような料理だった。  オーク肉と穀物を、ブイヨンで上品に煮込み、仕上げにハーブが散らされている。


「召し上がれ。『オーク肉と五穀のラグー ~森の香りを添えて~』です」


 ガルドーさんとミシェルカ、そして私がスプーンを入れる。  うん、美味い。  肉の臭みはなく、穀物の甘みが引き出されている。文句なしに美味しい。


「……でも、違うのよね」  私がスプーンを置くと、ガルドーさんも無言で頷いた。


「なんですと? 味付けが不満ですか?」 「ううん、味は最高。でもね、キュイジー」


 私は立ち上がった。


「午後からダンジョンに行くガルドーさんや、洗濯魔法でヘトヘトになるミシェルカが求めてるのは、こういう『優雅な味』じゃないのよ」


 私は厨房へ向かった。  石窯の火力を最大にする。  中華鍋――はないので、深めの鉄フライパンを火にかける。カンカンに熱せられ、煙が出るまで。


「賄いってのはね、短時間で食えて、ガツンと腹にたまって、午後への活力が湧く……『燃料』じゃなきゃダメなの!」


 私は、昨日炊いて少し水分が飛んだ「冷や飯」をボウルに用意した。  そこに、溶き卵を先に混ぜ合わせる。邪道と言われる「卵かけご飯状態」にしてから炒める手法だ。こうすると、家庭用火力でもパラパラになりやすい。


 ――ジャァァァッ!!!


 たっぷりのラード(豚の脂)を引いた鍋に、卵ご飯を投入する。  爆音と共に、米の一粒一粒が油でコーティングされ、踊り始める。


「なっ、なんだその火力は!? 米が焦げるぞ!」 「焦がすのよ! この『メイラード反応』の香ばしさこそが旨味なの!」


 私は鍋を振る。  小柄な身体全身を使って、重い鉄鍋をガコンガコンと振るう。  米が宙を舞い、炎が舐める。  余分な水分が飛び、黄金色のパラパラご飯へと変わっていく。


 そこに、細かく刻んだオークの焼豚、ネギ、そして私の相棒『醤油ポーション』を鍋肌から回し入れる。


 ジュワアアアアッ!!  焦げた醤油の香りが、爆発的に広がる。  最後に、黒コショウと、うま味調味料代わりの『キノコの粉末』をひとつまみ。


「完成! 『黄金ゴールデンチャーハン』!!」


 ドンッ! とテーブルに置かれたのは、湯気を上げる黄金色の山。  具材はシンプル。だが、米の一粒一粒が卵と油を纏って輝き、焦がし醤油の香りが鼻腔をくすぐる。


「……いただきます」


 キュイジーがおずおずとレンゲ(木のスプーン)を入れる。  ハフハフと言いながら口へ。


「……ッ!!」


 熱い。そして、美味い。  パラッとしているのに、噛むとモチモチした米の食感。  ラードの動物的なコクと、卵の優しさ、そして最後にガツンとくる醤油とコショウの刺激。


 気づけば、レンゲが止まらない。  咀嚼する間もなく、次の一口を放り込みたくなる。  喉が渇き、水を飲む。そしてまた食う。


「ふぅ……ふぅ……うまい……!」 「でしょ? 汗かいて、ガツガツかっこんで、プハァって息を吐く。これが『食堂の味』よ」


 横ではガルドーさんが「これだぜこれ!」と大盛りをお代わりしている。


 キュイジーは空になった皿を見つめ、ハンカチで額の汗を拭った。


「……完敗だ。私は『食事』を作っていたが、貴女は『活力』を作っていた」 「まあ、あんたの料理もデートには最高よ。今度、夜のメニューに入れてあげる」 「本当ですか!?」


 キュイジーは嬉しそうに立ち上がり、また厨房へ戻っていった。


「では、チャーハンの鍋振り(アオリ)を練習します! 鍋を貸してください!」 「あ、ちょっと! それ私の専用鍋……!」


 ガシャーン!  盛大な音と共に、米粒が厨房中にばら撒かれた。


「あーあ……。掃除は任せたわよ、三ツ星シェフ」 「は、はいぃッ!! すみません師匠!!」


 こうして、私の店に「チャーハンの練習をする三ツ星シェフ」という、新たな名物(?)が誕生したのだった。

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