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愛のリペアマイスター ♡第8話 温かい呼吸♡

声が聴きたいよ。

 暁斗の休み前の水曜日の朝、靴修理店『靴歓ぶ』のオープン時刻から1時間経った頃、燈は暁斗にLINEを送った。

『声を聴きたい 燈より』


 お店に行っても良いのだけど……お仕事の邪魔をしちゃ悪い。それと、万が一奥さんと鉢合わせたら、自分は嫉妬心で死んじゃうんじゃないかとさえ思う燈なのだ。


 すぐに暁斗から返信が来た。

『オレも、燈ちゃんの声が聴きたい……もし、燈ちゃんさえ、ご都合がついて嫌じゃないようであれば、今お店に来ますか? 暁斗』

(え……!)燈は先程感じたことが頭にちらついて、なんにも返信できずにいた。

 すると暁斗から再びLINEが来た。

『燈ちゃん、燈ちゃんが心配していることは起こらないよ。家族はまずここに来ないんだ』

 燈は(どうしてわかったんだろう?)と不思議な感覚と喜びを感じた。通じ合っているのかなって。

『お仕事のお邪魔じゃないですか? 暁斗さん』

『ううん、独り気楽にやってるから何も問題ないよ。むしろ、燈ちゃんが来てくれたほうがお仕事がはかどります』

(あ……)

『じゃあ今すぐ行きます!』

『はい。気を付けてあったかくしておいでね』

『うん!』


 燈は胸を弾ませながら自転車のペダルをこいだ。

 白い息が吐き出される度、それはみんな吹き出しになって……その中に1つ1つ、暁斗との素敵なひと時を映し出した。


 自宅から暁斗のお店『靴歓ぶ』まで、自転車でほんの10分ちょっとだ。

 あっという間に『靴歓ぶ』に到着!


 ドアを開けると、店頭で待ち人を待っているらしき様子の暁斗。

「暁斗さん!」と歓びの余り大きめの声になってしまう燈。

「燈ちゃんっ、来てくれてありがとう」

「ううん、『来ても大丈夫だよ』だなんて、あたし……嬉しかったの」瞳が潤む。今の燈には様々な感情が渦巻く。

「うん。ごめんね、辛い思いをさせて……燈ちゃん。オレ、燈ちゃんをなんでこんなに好きになっちゃったんだろ。気持を止められない」

 燈は下を向き、やはり……嬉しい。暁斗は少し心配するように燈を見つめている。

 燈は貫こうと決めた。というか、そうしかできない。暁斗と同じだ。こんな情熱の炎を吹き消せる訳がない。大雨が降りしきったとしても、泥んこになって泣いても、この先……この気持ちは消せないのだなと予感する燈。


「コーヒー、淹れよっか?」

「あ、お構いなく。暁斗さん、あたしを気にしないでお仕事をされてください」

「うん。ちょうどバッグの修理が終わったところでね、コーヒーを淹れるの、燈ちゃんも飲みませんか」はにかむような表情の暁斗。

「あ、はい! 戴きます」


 暁斗へ逢える幸せで気づかなかったが、燈は自分の手が冷たくなっていることで、いつもの手袋を忘れてきたことに気づいた。

  あたたかいコーヒーにこの冷えた両手も期待している。


  暁斗はお湯を沸かし「インスタントだけど」と微笑んだ。

 そして「燈ちゃんこっちに入って来なよ」と暁斗。「うん」

 小さなお店だが、カウンターの中へ入ると、棚の後ろには広いスペースがあり、バッグや靴や道具が並んでいた。


 カップにスプーンで入れられたコーヒーにお湯が注がれると、豊かな香りが漂よう。それだけでなんだかほっこりする。

 暁斗も燈も静かにしている。コーヒーを美味しくするための魔法をかけるみたいに。


「いただきます」「はい」ふたりであったかいコーヒーをフーフーする。

 凍り付いていた燈の手が温もりを得、嬉しそう。もちろん、燈のハートは切なくも満たされている。そうね、コーヒーカップにどれほどかというと……コーヒーが泉のように零れ続けるぐらい!


「燈ちゃんは今、のんびりした生活?」

「ええ……」少し黙ってしまった。でも、燈は暁斗になら何でも話せると感じる。続けて言った。

「あたしね、暁斗さん、ラウンジレディをしていたのだけど……凄く疲れてしまって、心の病気になっちゃったの。それで今はクリニックへ通っているわ。あの時……『お財布』のとき」ニコッとすると「うん」と暁斗は微笑んだ。

「暁斗さんのお財布を拾った時ね、実はクリニックへ行く途中だったの」

「そか」背もたれのついた椅子と椅子はお隣同士だ。暁斗は燈の小さな手を握った。

「オレが守る」

「え……」

「燈ちゃん、一緒に元気になって行こうね。オレが居るからだいじょうぶだよ」

「はい……うれしい。暁斗さん」

「燈ちゃん、『さん』って付けなくて良いよ。オレは……燈ちゃんの男だから。ううん、まだまだだな、これからもっともっと燈ちゃんの恋人としてがんばる。守り通す」

「あき……と。あたしのことも呼び捨てして」テーブルにコーヒーカップをそっと置き、燈は立ち上がった。

 そして座っている暁斗の後ろから両腕を回し頬ずりした。すると暁斗はすぐに立ち上がり、燈を強く抱きしめた。止まらないくちづけ。時々くちびるとくちびるが離れると唾液の糸を引く。

 暁斗が凄く興奮しているのが分かり、燈は心配になった……。「お仕事……」と伝える。

「そだね。ついガマンできなくなっちゃったんだ。燈、愛おしいよ」

「暁斗、あたしも……。ネェ、お仕事は何時までですか?」

「ン、6時までだよ」

「暁斗、電車ですか?」

「ううん、今日は車だよ。電車で来ることは稀かな」

 燈は思い切って告げた。

「今日……あたしのお家に来れる?」

「あっ……。良いのかい?」

「はい。あたしは自転車で帰っておくわ。お仕事が終わったら、来てほしい……」斜め下へと視線を落とす燈。長いまつげも下を向く。


 暁斗は燈の言う住所をスマホにメモしていた。

「マンションよ。5階でね、けっこう見晴らしが良いの」

「そうなんだね、燈……」と暁斗が言い、燈の右手を優しくとった。燈の掌を自分の胸に当てさせる暁斗。

 そして「わかる……?」と訊く。

 燈は顔を赤くした。「はい……凄く、ドキドキいっているわ、暁斗のお胸」

「うん」


……なんて優しい時間。

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