愛のリペアマイスター ♡最終章 愛のリペアマイスター♡
燈、自分に負けないでっ。
暁斗から連絡の来ない日々が続いている。
時々、自分は捨てられてしまうのかな、と燈の胸はザワザワとする。
(ちがう! そんなバカなことある訳ない!)一生懸命、疑念を鎮める。
昔のようにオーバードーズをすることはないが、眠剤の頓服薬を毎晩飲まないと眠れなくなった。
こんな持て余す時間と憂鬱。趣味の写真を撮りに行く気になんてなれる訳もない。
燈は自分の過去をまざまざと思いめぐらすようになった。
優しい暁斗は無論指摘したことなどないが、燈の首と、両手首と二の腕の内側には、深い傷跡がある。自分で切った跡・ナート跡だ。
燈は幼少期から内気な子だった。そして、6才の頃、性虐待を受けたサバイバーだ。
思春期になると不良仲間とつるんでいたが、心からは打ちとけなかった。
ある時などは、いわゆる同じヤンキーのツレである朋美から先輩男性を紹介され恋に堕ちた。それは良かったのだが、ある日その彼氏は友達の男をデートに連れて来て、燈にその友達の男とも寝ることを強要した。
嫌がる燈に向かって「言うこと聞けよ! もうこっちは朋美に金払ってんだからさ!」と最中に言ったのだ。耳を疑った。
家庭内もDVに溢れ、心をグッチャグチャに壊す家で育った。
病気にならないほうがおかしい。
だから16で岡山から東京へ飛び出したのだ。
大好きな暁斗に逢えない今、燈に襲い掛かる数々の厭らしい記憶。そんな今、とっても自分がちっぽけで、駄目で惨めに思えてくる。
ラウンジレディ以外にも、風俗嬢もしていた燈。
躰を売ってお金をもらうぐらいのこと、どうってことはなかった。何かが鈍磨していた。
ウィンドウショッピングの最中に欲しい服があり、持ち合わせがなければ、「付けといて、明日払うから」とさっそく洋服を持ち帰り、その日の夜のうちに街に立ち、男から躰と引き換えに金をしこたま踏んだくった。
そうしてきのうのブティックへ行き、耳を揃え洋服代を渡すのだった。
(……こんなあたしは、暁斗みたいに素晴らしい男性に愛される資格はないかな)
そんな風に花がしおれてゆくように、うなだれている。
*
暁斗へ、何度も連絡したい気持ちを抑えている。抑えて、抑えて……気が狂いそうだ。
だってもう、あれから3カ月経過した。
あんな写真、見せるんじゃなかった。あんな探偵の真似、するんじゃなかった。
燈は今すぐ死んでしまいたいと思った。でも、息子の一樹の存在が引き留める。
死んでたまるか。
木曜日の朝、電話が鳴った。
「暁斗!」
半ば諦めかけていた大好きな暁斗からの電話。でも……なにを言うだろうか。
燈はソワソワと電話に出た。
『燈っ、燈、待たせてごめんね』
穏やかな暁斗の声を、好きなひとの声を聴いた途端、ぜんぶがほどけた。(きっとあたしの杞憂だったはず)
『今からそっちに行っても良いかい? 燈』
「はい! もちろんです」
暁斗はこの3カ月間どうしていたのだろう? 家庭はどうなったのだろう? ききたいことはいっぱいある。
電話を切り40分ぐらいすると玄関チャイムが鳴った。インターホンに出ると暁斗だ。
「暁斗!」
「燈っ、燈、逢いたかったよ」
「うん、うん……」
暁斗はそのあと言った。
「離婚したよ」
(え……)燈は正直言って嬉しい! だって当然じゃない、愛し合っていない人同士が一緒にいるなんておかしい。
涙がボロボロ落ちてきた。何とも説明のつかない涙。安堵だろうか。
「燈、御免なさい……。オレは、燈と結婚したほうが良いんだ。だのに、今はまだできない」
「ううん、わかってる、それは良いの、良いの」
会ったことが無くったって、燈は暁斗の子ども達のことをとても大事でかわいいと感じている。
「子ども達の親権を争って、オレが勝ち取った」
「そうだったのね。うん、良かった」
これからは隠れたりしないで手を繋いでデートできること、お食事にも行けること、シンプルなことがシンプルに、ただ嬉しい。ドライブにも連れて行ってほしい。
ふたりでしたいことがいっぱいある。
幼い頃から腐ってばかりだった燈が、危うい恋をした。
でも今は溢れんばかりの愛情に包まれている。
結婚がすべてなんかじゃない。
優しくしたい相手がいること、それが一番素敵! なにより素敵!
片方が壊れてしまった時に、必死で片方は機能し、修復していく。そうありたい。
あなたはあたしが失った愛を修復してくれた。掛け替えが無いの。




