愛のリペアマイスター ♡第12話 後ろ暗いが探偵♡
嫉妬は苦しい。
奥さんはスタスタ立ち去って行った。
「燈、御免なさい!」
暁斗が深々と頭を下げた。
燈は嫉妬で心の窓が曇り、暁斗の誠実さが見えなくなってしまった。まるでやつ当たりだ。
不機嫌な表情のまま口をきけずにいた。胸の奥では暁斗の一途さを感じているのに。
「嫌よ!」
街中だが大きな声で叫び、泣き出してしまった。
「燈、ここは寒い。ホテルへ行こう」
「え、奥さんに『適当に帰る』て言ったじゃん!」ヤキモチに苦しめられている燈。
「『帰る』って!」もう一度行った。涙が止まらない。
大嫌いな言葉だ、一番言って欲しくない言葉だ。ただの駄々っ子だが、暁斗には『帰る』という言葉を言って欲しくない! 辛い!
「燈、今日は帰りたいかい……?」
暁斗は何処までも優しい。
「……。いや」
「わかった」
そうして燈は暁斗にもたれかかり歩いた。そして近くのラブホテルへ入った。
*
部屋に入るとたばこに火を点ける暁斗。
「燈……今、謝ることしかできないオレを、許してほしい。オレ、燈しか愛していないんだ」
「暁斗……あたし、叩かれたし、腹立つ! 悔しい! 奥さん嫌いよ! 大っ嫌い! 暁斗は『家族』と彼女に言った。ええ、本当のことよ? でもあたし耐え切れない」
「燈、申し訳ない。オレ、本気であいつを警察に突き出してやりたいぐらいだ。でも、あいつなら借金してでも弁護士を雇って燈を訴えかねない。理不尽だよな。『不倫』なんて言葉があること自体。オレが狂ってるのか?」
「暁斗……」
燈は少しずつ落ち着いて行った。
「好きなんだからしょうがないじゃねぇか……燈? オレのお話、聴いてくれるかい?」
黙ってコクリと燈はうなずいた。
「オレ、妻のことははっきり言って愛していない。ただ……娘と息子を心から愛してる」
「わかるわ。あたしも息子の一樹は自分の命よりも大切よ」
「うん……。そうだよね。それでね、娘はハタチだけどさ、息子はまだ中学生だ。居てやりたいんだよ、そばに」
燈の考え方は違う。愛し合っても居ない父母のそばで子どもが幸せに育つものだろうか? と疑問に感じる。自分ならすぐに離婚するな、という考えだ。
でも、暁斗には暁斗のものの考え方があるし、尊重すべきだと燈は感じる。
「そうなのね……」
燈は黙っていた。
「燈、燈には燈の気持ちがあると思う。もしかしたらオレとは違う考え方だって持ってるかもしれない……」
「はい、そうです。でも、あたしは暁斗について行きます」
そうは答えたけれど、燈はいっぱい辛抱している。しかし望んだ上での辛抱だ。
「抱いて……暁斗」
「燈、ほんとうに好きだよ」
「うん、あたしだけをずっと、ずっと抱いてね?」
「もちろんさ」
ふたりでシャワーを浴びた。降り注ぐ雫が燈の涙を隠した。
バスルームを出て、ふたりは蛇のように絡み合いひとつになった。
最高潮の快楽に達した時、燈はあまりの快感と我慢していた想いがいっしょくたになり泣いた。
「燈? だいじょうぶ? 燈?」
「うん……暁斗、凄く……カンじちゃって」
すべては吐き出せぬ関係。それは他者に対してのみならず、愛しいこのひとへも択びとった辛抱を重ねてゆくという果てない旅路だ。
気が弱く、脆く、心の病を持ち、感情の起伏が激しい自分は、妻帯者との恋は向かないよなと改めて悲しむ燈。けれど、その道を択んだ。
「燈……燈……」何度も名を呼ぶ暁斗。
「うん、うん……」暁斗はわかっているのだ、燈の葛藤を。
その上で、この恋を手放さないという選択は、彼にとっても胸の痛む道だ。
*
暁斗の奥さんに殴られた日から一週間経ったある日、燈は田舎の母親への誕生日プレゼントに美麗なオルゴールを贈りたくて、隣の駅まで出かけた。オルゴール専門店があるのだ。
燈はオルゴールが好きで3つ持っている。1つはけっこうなお値段のモノだ。そのお店は去年ネットで見つけた。店に入るとおとぎの国に来たように甘美な空間ですぐに気に入った。
駅を出て、オルゴール店を目指していると、(ハッ! あの茶髪の巻き毛は!)派手な女性が満面の笑みで男性と腕を組んで歩いている。
暁斗の妻だ。……腕を組んでいる相手は暁斗ではない。
(水商売でもしているのかな?)燈は、自分の行為を恥じながらも、スマホでこっそり写真を撮った。無論、暁斗に見せようかと考えたのだ。
幸いにも彼女は燈に気づいていない。しばらくこっそり燈はあとをつけた。ちょうどオルゴールのお店の方向へと彼女らは向かっていた。
「あ!」
暁斗の妻と男性はラブホテルへ入って行こうとしている。燈はその光景もスマホにおさめた。
燈は正直言って嬉しくなっている自分に気づいた。暁斗が燈の目の前で妻に向かって言った言葉『とっくにオレ達、冷え切ってたじゃないか』真実なんだわと良くわかった。
暁斗に……見せたい、この写真。
これ……どうしよう?




