モヤモヤしている心の内を聞いて欲しい
【とある衛兵のモヤモヤ】
いきなりありがちで申し訳ないけど、俺、転生者なんだよね。
ゲームや小説の主役ではなく、モブでもなく、ただ記憶を持った小さな国の一衛兵、32歳、一応妻子持ち。
下っ端衛兵の俺の仕事は、主に門番、しかも一番小さくて危険な深淵の森の門。
面倒だろうけど、ちょっと説明させてくれ。
俺の住む国…N国としておこう。
N国は地球風に言うと、背後がエアーズロック、前後左右が青木ヶ原樹海って感じのイメージの、人口一万も居ない小国。
一応国と言ってるけど、百年ほど前までは外界との交流もなかった秘境なんだ。
そんなうちの国と樹海を挟んで三つの国が隣接しているらしいのだが、交流が始まる前から、その国々から来るわけですよ、国外追放者が。
国家反逆罪とか、殺人罪なんかもだけど、特に多いのが、政治の駆け引きで負けた爵位が高く、死刑にできない人達が、辺境の地(うちの国だな)の方角に捨てられるんですよ、凶暴な猛獣や魔獣の居る森に。
死刑にはできない、もしくは自分たちの手を汚したくないのか、森で喰われてしまえ、生きてても辺境の蛮族(俺たち)にヤラれてしまえ、みたいなノリで森の奥地で追放者たちを放つんですよ。
そうすればどうなるかわかるよね?
猛獣や魔獣が人の味を覚えてちまうんですよ。
しかも、置かれた場所で尽きるならまだしも、ワンちゃん求めてうちの国へ逃げてくるんですよ、色々引き連れて。
こちらとしては生きてたら救わなきゃなんないから助けるのはまだいい。
困るのが国の近くで事切れること。
そうなればどうなるかわかるよね?
人の味を覚えた獣たちはうちの国に餌を求めて押し寄せてくるんだよね。
それを防ぐのが俺たち下っ端なんだよ。
うちの奥さんとかは「危険手当が出るんだから頑張って」とか言うし、息子は「僕、絶対衛兵になんてなんない」って言うし、娘は「父さん獣臭い」とか言って近づかないし………。
元々獣たちは森のなかで食物連鎖できてたし、態々人の住む場所に近づかなかったのに、追放者のせいでうちの国が餌場認定されるなんて、溜まったもんじゃない。
最近やっとお偉いさんたちが、森に追放者を放置しないでくれと話し合いをしているんだけど、俺に言わせれば、
犯罪者を放出すんな!
自分の国で起きた問題に他の国を巻き込むな!
国で起きた犯罪なら、国内で処理しろ!
ゴミでも吸い殻でも犯罪者でもポイ捨て禁止、捨てるなら規定の場所で、だ!
いや、ホント、自国でどうにかしてください。
【とある修道女のモヤモヤ】
私はとある修道院でシスターをしている者です。
今日は私の懺悔を聞いてください。
我が修道院は、歴史のある院なのです。
シスターが日々、祈りや慈善活動などを行いながら、心穏やかに過ごしていました。
………ええ、【いました】なのです。
実はここ二十年ほどの話なのですけど、若い女性の方や高貴な身分の方が増えました。
いえ、若い方が俗世を離れ、心穏やかに生活をするのは良いことだと思います。
私が院に来た頃は、神の教えを学び、祈りや労働、奉仕活動や医療行動など、人々ののお役に立つことを誉としておりました。
それなのに、このところ院に訪れる若い方々は、神を敬うこともなく、奉仕活動や労働などを嫌い、口々に同じような事を言うのです……。
よく意味がわからないのですが、会話を漏れ聞いたところ、
「へー、あんたもざまぁされたんだ」
「そーそー、フラグ折り頑張ったんだけど、強制力に負けた」
「あ、ウチはざまぁ返しなんだ。悪役令嬢にマケタ」
「あー、私その小説、漫画版で読んだ」
「アタシはアナタのゲーム知らないな」
「あ〜、めっちゃマイナーで販売本数少ないヤツだったからね〜」
「つーか、みんな別口なのに、行き着く先は同じって、捻りがないよね」
「そうそう、どれにでも出てくるよね」
「「「「「「北修道院」」」」」」
キャハハハハハハハ!!!
別の国、違う時期に院に来た方々ですけど、みなさん知り合いなのでしょうか?
とても会話が盛り上がっております。
真面目にお勤めをするではなく、
「相手どんな王子だった?」
「ヒドインも転生者だったけど、あんなクソ王子いらねーし」
「何かチートした?飯テロ?」
「電化製品魔道具化?」
など、意味のわからない会話をしてばかり。
「社交界とか面倒だし、男尊女卑な世界観だし、戻る気ナッシング」
「わかるー、前世でも婚活失敗したのに、こちらでもなんてムリー」
「ここなら素で過ごせるし、みんながいるし、ずーっとここでいいや」
「次はどんな悪役令嬢やヒドインが来るかな〜」
「あ、賭ける?」
「いいね〜、デザート三日分とか」
「オケマル〜」
若い方々が楽しそうなのはいいのです。
社交界ではないのですから、気楽に過ごされるのも良いのです。
でも、ここはあくまでも【修道院】なのです。
女学校の女子寮ではないのです。
おしゃべりより、お祈りや奉仕活動をして欲しいのです。
でも、強制はできません。
ここは監獄ではないのですから。
………そう、ここは修道院なのです。
監獄でも若い方の更生施設でもないのです。
お願いします、国の上層部の方々、問題のある若人を押し付けるのは勘弁してください。
せめて、北にあるここに集めるのではなく、他の院に回してください。
私の心穏やかな日々が戻ってくる事があるのでしょうか…………。
【とある若社長のモヤモヤ】
あー、会社に問題が多発して、最近二代目として社長になりました。
正直な心の内を言わせていただきますと、我が社の方が被害者かと。
このままでは会社が潰れてしまいます。
ですから声を大にして言いたい!
けれど一部の若者たち以外には意味が通じず、乱心したとしか思われないでしょう。
だが言わせてもらう!!
「テメーら、トラックに轢かれたからって異世界転生できるわけないだろ!
常識で考えろよ!!
一万歩譲って輪廻転生はあるかもだけど、死んだら終わりだろ?
今の生活から逃げたいから、ワンちゃんトラックに轢かれちゃえ!なんてやめてくれ。
あれは創造のお話しなの、空想世界なの、ファンタジーなの。
何が「よし、これで俺も異世界行デビュー」だよ「神様カモン」だよ!
昔から言うだろ?
車は急に止まれない、 なのに信号青で走っているトラックの前に飛び出すとか、自殺以外の何元でもない。
ながらスマホで歩道の信号赤なのにフラフラ車道に出てくるとか、マジやめて。
歩いてる人が飛び出すと、こちらがどれだけ前方注意してても、法定速度守ってても、業務上過失致死ってこっちが丸々悪者になるんだよ。
ドライバーに悪いと思わない?
トラウマもんだよ?
ドライバーの生活めちゃくちゃになるんだよ?
その家族、親族巻き込んで不幸になるんだよ?
運送会社にも責任追及くるんだよ?
おかげで親父社長降りたし。
もう、マジ頼む、異世界転生したいからって、トラックの前に飛び出すの勘弁してください。
【衛兵に転生者設定いるのか?】について蛇足
衛兵に前世設定を入れたのは、その世界に生まれていたら、「こう言うものなのか」と疑問に思う事もなかっただろうからです。
小説の中の世界では、そんなに教育もなされていないだろうし、国交のなかった閉鎖された国で生まれ育った人は、あるがままを受け入れて、疑問に思うことなかっただろうな、と。
前世知識があるから、他の国のやり方(姥捨山宜しく人を捨てる)がおかしいし、国のことは国で解決しろと思うだろうからです。