リコーダーが五回変えられた。
真面目な委員長のリコーダーの運命やいかに
委員長の夏目理沙さんが好きだ。
少し切れ長の目に、吸い込まれそうな瞳。
濡れ羽色の長い髪に、ちっちゃい顔。
頼まれたことは何でもやってくれて、それでいて辛さを感じさせない笑顔。
まさに男子の理想だ。校内にファンクラブもある。
さて、今日は体育があった日だ。男子が体育館で女子がプール。
こんなに暑いのに未だにエアコンがなくて、いつも何人か保健室にいくんだ。
学校の工事より先にエアコンをつけろって、生徒は皆思ってる。
いまは終わりの会。一日を振り返って、やっと家に帰れるんだ。
今日は金曜日だから、明日から休みだ!
「これで委員会からの連絡を終わります。
最後に、なにか言いたいことがある人はいますか?」
日直の佐藤君が言った。
「はい」
夏目さんが手を上げた。またいつもの業務連絡かな?
「この1ヶ月間で、私のリコーダーは5回変えられました。
この学校は音楽が水曜日しかありません。その一回は体育のあとなので、
着替え室に音楽の用意を持っていきますよね?そして、他の授業は教室でやるから、
リコーダーが私の手元にないのは体育の授業がある月曜日と金曜日です。
私のリコーダーは口元にキズをつけています。最初の月曜日にキズがないものに
変わっていました。また違うところにキズをつけていると、金曜日には
また違うものに変わっていました。それが5回繰り返されました。5回ですよ?
ちなみに、その間の水曜日は別のリコーダーを持ってきました。
リコーダーを変えた5人の方々、なにか申し開きはありますか?」
いつもと違う雰囲気で一気に告げられたことばに、クラスは唖然とする。
すぐに起立した後、最初に苦学生の大倉が口を開いた。
「俺が最初にリコーダーを取り替えた。
明野に夏目のリコーダーを持ってきたら3万円やるって言われて…
でも金につられてもやっちゃいけないことだった。マジでごめん」
皆が一斉に明野を見る。明野は黙ってうずくまってしまった。
次に噂好きの日野が口を開いた。
「夏目のリコーダーを落とし物ボックスに入れると
次の日下駄箱に金が入ってるって噂が流れて、やっちまった。
彼女の誕プレが金欠で買えなそうで… 申し訳ない」
皆が一斉に明野を見る。明野は黙ってうずくまってしまった。
次にブサイクな西川が口を開いた。
「告白したけど振られて、魔が差してやってしまいましたぁ…
ほんとにごめんなさいぃ…」
皆が一斉に西川を見た。西川は走ってトイレに行ってしまった。
次に秀才の河合が口を開いた。
「いつも成績で負けてるのが悔しくてせめて
音楽の成績は下げてやろうとしました。本当に申し訳ございません」
皆は河合の方を向かなかった。普段の行いがいいからな。
最後に明野が口を開いた。
「夏目さん!好きです!付き合ってください!」
皆が呆然とした。
「付き合うわけねーだろ!私には彼女がいるんだ!!」
…この状況で一番いい思いをしたのが
理沙の彼女であるわたしなのは火を見るよりも明らかだ。
委員長見てるとこういう妄想が思いつく僕の脳は腐っている。