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第56話 番外編⑨ 学び始めた者たち

 ――エルウッドが『フライヤーズ』を抜けてすぐのこと。


 エルウッドには志があったが、ろくに路銀がない。


 そこで大都市リングルベンの冒険者ギルドで、ひとりでもこなせそうな依頼を物色していたところ。


「エルウッド! 良かった、まだこの街にいたのね!」


「ラウラか。引き止めに来たんなら悪いが、オレは戻るつもりはないぞ」


「逆よ逆。あたしも辞めてきたの」


「いいのか? お前は、ジェイクを……」


「ええ、でもいいの。全部振り切ったわ。お陰で、今は心が軽くなったみたい」


「そうか、それは良かったと言うべきだな」


「ありがと。それで、エルウッドはこれからどうするつもりなの?」


 問われて、エルウッドは自分の鞄に詰め込んだシオンの本を見やる。


「オレはシオンの遺志を継ぐ。旅をしながら鍛冶修行を続けてみるさ」


「目的地はあるの?」


「アテはないが……そうだな。どうせ修行するなら本場がいい。のんびりメイクリエ王国でも目指してみる」


「ふぅん、そっか。じゃあ、途中まであたしと同じ方向ね」


「ラウラはどこへ行くんだ?」


「ロハンドール帝国魔法学院。冒険者向けの短期錬成コースが開講したらしいのよね。この際だから、しっかりA級になっておこうと思って」


「それはいい。なら途中までだが、組むか?」


「ええ、組みましょ。戦士と魔法使いのふたりなら、やれる仕事も増えるしね」


「そうだな。ラウラはもっと仕事を増やしたほうが良さそうだしな」


「んん? どういう意味? 実戦で修行しろってこと?」


「いや、気づいてないなら言っておくが……お前、店をやってる間、ちょっと肥えたぞ」


「なっ!?」


 ラウラは自分の体中に視線を巡らせる。


「そう言えば最近、服が縮んだな~って、思ってたけど……」


「服は縮んでないな」


「……少しくらいぽっちゃりのほうが、男ウケが良かったりしない?」


「自分でぽっちゃりって言うやつは、だいたいの場合は――」


「あー! あー! 言わないでわかってる! 魔法使わないとカロリー消費減るから、同じ量のつもりでも食べ過ぎになっちゃうのよ! ご指摘どうも! でもね」


 ラウラはエルウッドを睨んでくる。エルウッドはなぜだかわからない。


「デリカシーがなぁい! もっと気を使って指摘しなさいよ!」


 すぱぁん! と、ラウラのツッコミの張り手がエルウッドを襲った。


「それはすまん」


 盾役戦士のエルウッドは、びくともしなかった。


 ――そうしてふたりは旅立ち、今もそれぞれの目標に向かって旅を続けている。


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