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第44話 番外編⑦-2 無知なる者の後悔

「うああ! ちくしょう! ちくしょぉお!」


 ジェイクは商品の剣を無作為に手に取り、ただ衝動のままに振り回す。


 店のカウンターは壊れ、棚が崩れる。


 暴れるうちにシオンが作ったジェイクの鎧に剣が当たり、剣のほうが折れてしまう。


 その事実に、ますます苛立ちが募る。また剣を持ってきて、何度も何度も鎧に打ち付ける。


「なんだよくそが! 俺があいつに劣ってるってのかよぉ! あいつがそこまで凄いってのかよぉ!」


 何本も剣を折って、剣が尽きれば【クラフト】で直して、また振るう。


 エルウッドが放り投げた不滅の盾(イモータル)が目について、今度はそいつに剣を叩きつける。何度も何度も。


 息が切れて、動けなくなる。


 盾は無傷だった。その美しいまでの輝きは、ジェイクの姿を映し出す。


 そこには、醜い男がいた。


 髪はボサボサ、髭はボウボウ。たったこれだけの運動で息も絶え絶えになるほど衰えており、自慢の【クラフト】で作った剣はナマクラばかり。


 これが、俺か?


 S級魔物のドラゴンさえ仕留めた、あの『フライヤーズ』のリーダー、剛腕のジェイクは一体どこへ行ってしまったのか……。


 愕然として、床に座り込む。


「ぐっ、くぅ……! ちくしょう……!」


 ただただ涙が溢れてくる。


 本当はわかっていた。ジェイクはシオンより劣っている。


 でなければ、彼の技能スキルを欲しがったりはしなかった。


 いや技能スキルだけじゃない。人格だって。


 シオンは、いつもジェイクを立ててくれていた。彼が指揮を執ればもっと上手くいくのに、よほどの緊急時以外はジェイクに任せてくれていた。


 迷うことがあっても、さりげなく褒めて、後押ししてくれていた。


 クズな判断をしそうなとき、優しい言葉で正してくれた。


 彼がいなければ『フライヤーズ』はS級パーティとなることはなかった。下手したら犯罪集団になっていた。


「シオン……。シオン! 全部、全部あいつのせいだ! あいつさえいなければ、俺は――」


 ――俺は、自分が優れた人間だと勘違いしなくて済んだんだ……。


 シオンと出会わなければ、S級パーティにはなれなくても、自分の身の程を知る、そこそこの冒険者にはなれていたんじゃないか……?


「いや……違う。違うな……。シオンがいなけりゃ、俺はとっくに死んでたな……」


 何度シオンに命を救われたかわからない。


 今日まで生きていられたのは、間違いなくシオンのお陰だった。


 そうだ……。ちくしょう……。


 ジェイクはたったひとりですすり泣く。


「俺にも、シオンが必要だったんじゃねえか……」

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