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第158話 自分のライバルくらい自分で作ってみればいい

「ほう……なるほど。伸縮力をあえて抑えつつ繊維状に……。それなら確かに筋肉の代わりができる。遠隔操作も……。その発想はなかったな……」


 強化倍力鎧パワードアーマーの原理をかいつまんで説明すると、アルミエスは感心して唸った。うんうん、と頷きながら内容を復唱する。


 先ほどまで一触即発の空気が流れていたとは思えないほど穏やかだ。


 むしろ、ソフィアやケンドレッドのような職人と過ごしている雰囲気すら感じる。


 ソフィアもそれは同じなのか、お茶を入れてきて、アルミエスが作ったビスケットと一緒に持ってくる。


 いくつか質問をしてくる中、アルミエスはそのお茶やビスケットに口をつける。


 つけてから、ハッと我に返ったように立ち上がる。きっと無意識にやっていたのだ。


「なかなか面白い工夫だが、私の技術には及ばないな! この程度の物、私だってそのうち思い付いていた!」


 その言動に思わず笑ってしまう。


「はい。きっとそうでしょう。ですが、わたしたちのほうが先に実現しました」


 ドヤ顔で返すソフィアに、アルミエスは「うむむ」と口をへの字に曲げる。


「それを言うなら、車両技術や、お前たちが射出成形インジェクションなどと呼んでいる技術だって、私のほうがずっと先に実現させているんだからな」


「それはそれ。これはこれです。他のことで負けたからといって、ひとつの勝ちが消えるわけではありません」


「それなら勝ちの数は私のほうが多い!」


「そんなあなたから、わたしたちは一本取りました。つまり、勝負にはなるということです。次はどうなることでしょう?」


「なにを! 私が勝つに決まっている」


「まあ、そういうことだよ、アルミエス。あなたは、もうおれたちを無視できない」


 図星を指されたのか、興奮気味だったアルミエスは仏頂面を浮かべる。


「だったら、どうだというんだ」


「認め合えるのだと思う」


「認め合う? 私が? お前たちごときを?」


「確かにひとりひとりじゃ、あなたには敵わない。でもみんなの知恵を集めた物は、あなたでもまだ思い付いていない物だった」


「まぐれだ。たまたまだ」


「そうだとしても、十年後はきっと違う」


「ふん、十年あれば追いつけると? バカだな。十年あれば私も学んでいる。差は縮まらない」


「そうでもない。十年あれば、おれたちの技術を学んだべつの誰かが、新しいなにかを思いつく。ひとりでは作れなかった物をみんなで作り出す。そういうみんなが、あなたの相手――ライバルになる」


「束になったところで、私に敵うものか」


「そうかもしれない。でもライバルは、相手の実力を認めているものだ。そんな相手からの称賛は、満たされるものじゃないかな。少なくとも、ひれ伏させた相手が、理解できないのに崇めてくるよりはずっと」


「私が満たされるには、そんなものじゃ足りない」


「なら育てればいい。認めてくれたらたまらなく嬉しくなるような、そんな相手を」


「できるわけがない。お前たちの寿命は短すぎる」


「今の世代がダメでも、技術を受け継ぐ次世代がいる。いずれは追いつく。いや、追い越す。なんでも作れるつもりでいるなら、自分のライバルくらい自分で作ってみればいい」


 アルミエスは小さく息を呑んだ。睨むような目つきで、おれたちを見渡す。


「……その候補は、今のところお前たちになるな。見どころが、なくもない」


 武装工房車を見上げて、アルミエスはにやりと笑む。


「覚悟しろ。戦争だ。より強い兵器を、装備を、より大量に作る。そういう勝負になる」


「いえ、それはお受けできません。拒否します」


 ソフィアのひと言に、アルミエスは口を開けたまま静止した。


「……なんだって?」


「拒否しますと言いました」


「いや、しかし……知らないのか。技術を最も効率よく発展させるのは戦争だ。過去、人間たちが魔法や魔力回路を覚えていったのも――」


「ですが面白くありません」


「面白く、ない……か?」


「自分たちが作った物で、人が争うのは悲しくなるだけです。せっかくの技術なのに、壊し合うだなんて……いったい誰が幸せになるのですか」


「新しい物を作れたなら、それで幸せじゃないか」


「それは嘘です。現にあなたは、今も昔も幸せになれていないではないですか」


 ソフィアの黄色い綺麗な瞳が、まっすぐにアルミエスを射抜く。


 アルミエスは視線を落とした。


「だが、だが……技術とはそういうものだ。お前たちだって、新技術を使った結果、グラモルは貧困にあえぐことになったそうじゃないか。良いことだけじゃない。だいたい私たちが作らなくても、同じ技術があればどうせ誰かは兵器を作る。戦いになる。それが嫌なら、初めから新技術など生み出すべきではなかったのだ!」


 顔を上げソフィアを睨み返すアルミエス。


 ソフィアは目を背けない。


「確かに技術の発展には負の面があります。けれど……けれど――」


 感情が先走ってしまっているのか、ソフィアは次の言葉を上手く紡げずにいる。おれは彼女の肩を優しく叩き、対話を引き継ぐ。


「――おれは、技術そのものに正も負もないんじゃないかと思う」

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