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第117話 旅の成功を祈っております

「――では、このまま物作りしながら旅を続けると?」


 おれの提案した方針を受けて、聖女セシリーは改めて尋ねた。


「ええ、大神殿への道中にも、なにか作れそうな町や村はいくつもあった。リリベル村の様子も見に行きたいし、そこまでたくさん寄り道するのもいいと思ってますよ」


「その旅に、私も同行させていただいても良いでしょうか? 私も、これから多くのことを学ばなければなりません」


 おれはリック隊長にちらりと目を向ける。リックは小さく頷く。


「それはもちろん。聖女様がいてくれれば、教皇派の勇者や聖職者の説得も楽になりそうだし」


「なら、俺とはまたしばらくお別れだな、聖女様」


 バーンが言うと、セシリーは残念そうに眉尻を下げる。


「一緒に来てはくれないのですか?」


「留守をトーマスさんひとりに任せてきちまったからな。今頃は大忙しだろうよ。早めに帰ってやらねえと、ぶっ倒れちまう」


「そうですか……。そうですね、それがあなたの役目ですものね……」


 セシリーに寂しげに見つめられて、バーンは頭をかいた。


「まあ途中まで道は同じみてえだし、それまでは一緒に行くけどよ」


 それを聞いてセシリーは嬉しそうに笑顔を浮かべたのだった。


 おれはバーンに声をかける。


「すまない、バーン。できるなら、すぐそちらを手伝いたいのだけど……」


「いいさ、わかってる。どうせ来てもらっても、ろくに資材もねえんだ。まともな物は作れねえだろうし……例の新型の義肢も、問題だらけだろう?」


「物資に関しては、少し時間がかかるだろうけど、おれがなんとかするよ。義肢の問題点も、解決策を見つけてみせる」


 新型の義肢の問題点は、駆動部の多さからくる重量過多と、魔力回路を用いることによるコスト高だ。


 魔力回路は、以前に盾に施したのと同様に、射出成形インジェクション技術でいくらでも複製できる。


 だが重量は、新素材をもってしても充分な軽量化はできそうにない。


「すまねえ……。助かる。自分だけのことなら、自分でなんとかするんだが」


「いいさ。持ちつ持たれつで行こう。おれたちは物作り仲間なんだ」


「……ありがとう、シオン」


 色々な思いの詰まった「ありがとう」だった。


 おれはただ微笑んで受け取る。


「さて。私はそろそろ、お暇しよう」


 立ち上がったのはリック隊長だ。バーンがその顔を見上げる。


「なんだ、リックさんは聖女様に付いてたほうがいいんじゃねえのか?」


「この方々ならお任せしても大丈夫でしょう。私は、私にしかできないことをしに行く」


「というと?」


「大神殿に戻って、捜索の手を緩めさせましょう。それに、教皇へ意見を具申したいのです。すぐにはお考えを変えられないでしょうが、粘り強くやってみるつもりです」


「それなら、これを持って行って欲しい」


 おれは一通の手紙と、ひと巻きの生地を鞄から取り出す。


「これは?」


「リリベル村の勇者ダリアが書いた教皇への手紙だよ。この国でも物を作って輸出できるって訴えてる。この生地は、その証拠。リリベル村で作った新素材生地だ」


「これはありがたい。すでに実例があるなら、話もしやすい」


「でも気をつけて欲しい。リリベル村のカーラ司祭は、それを認めてない。教皇に、物作りを潰すよう進言しに行ってるはずだ。本当は、おれたちも一緒に教皇に面会して、カーラ司祭の思惑を阻止するつもりだったんだけど……」


「ご心配なく。それも私がなんとかしましょう。ただ……」


 リックは不安げに、大神殿のある方角へ目を向ける。


「教皇は長年ひとつの考えで凝り固まった方です。現実も説得も、一切受け入れられないかもしれません。最後の手段も、視野に入れておいたほうがいいかもしれません」


「最後の手段?」


「勇者シオン、あなたも知っているはずです」


「……あれか。わかった。おれのほうでも、念のため準備しておくよ」


「よろしくお願いいたします。では、みなさんの旅の成功を祈っております」


「あんたも、異端者だなんてレッテルを貼られないよう気をつけてな」


 バーンの言葉を背中に受けて、「大丈夫だ」とばかりに笑いながらリックは立ち去った。


 みんな、これからの旅やおこないに希望を抱いていた。


 新しい物作りに。この国の変化に。戦争の終結に。


 ただ唯一、サフラン王女だけが微妙に憂鬱な顔をしている。


「明日になればわたくし、父上と話をしなければならないのでしょう? まだみなさんと旅をしたいのに、きっと父上は許してくださいませんわ。どう説得したものでしょうか……」


 深刻そうな表情とは裏腹な、年齢相応の小さな悩みに、おれたちは和んでしまうのだった。

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