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第115話 君は追放だ

「……わかった。君の望むようにしよう」


 おれは受け取った『技盗みの短剣(スキルドレイン)』を握りしめる。


 ジェイクは覚悟を決め、目をつむってじっと待つ。


技盗みの短剣(スキルドレイン)』の切っ先を、そっと彼の左腕に刺した。


 短剣から力の流れが伝わってくる。やがて流れは止まり、短剣に【クラフト】が宿ったのだとわかる。


 ジェイクは目を開けた。


「……そうか。俺は、殺す価値もない人間だったか」


「違うよ。おれは君に、生きていて欲しい」


「なんでだ。俺はお前を殺そうとした、どうしようもないクソ野郎なんだぞ」


「今はもう違うのは、聖女様とリックさんの態度を見てればわかるよ」


「それこそ違う! 買い被りだ! 俺を立派なやつだなんて勘違いしてんだよ!」


「そうかもね。正直、おれの中の君と、ふたりが言う君の評価が違いすぎて混乱してる。君を怒ればいいのか、変化を喜べばいいのか、よくわからないんだ。だから、君が実際にしてることで判断する」


 おれはメイクリエの宮廷で、聖女と会談した日のことを思い出す。


「君が書いた、新しい義肢の図面を見たよ」


「……出来の悪い図面だったろう」


「それは確かに。でもね、おれはあの図面を見たとき感動したんだよ」


「あんな雑なもんのどこに」


「その魂に。おれたちは物を作ることで誰かを幸せにしたいと思って活動してきたけど、誰かの失った幸せを、こういう形で取り戻すっていう発想はなかったんだ。おれは本当に、あの図面を書いた人を尊敬して、是非会ってみたいって思ってたんだよ」


「それがこの俺で、幻滅させちまったな……」


「仮におれが幻滅したところで、君はあの義肢を作り出すのを諦めたりはしないんだろう?」


「……それは、ああ。俺には……また前みたいに走り回れるようにしてやりてえって思ってるやつがいるんだ。だから……」


「それが物作り魂だよ。おれを感動させてくれた源だ」


「そんな大層なもんじゃねえ。俺はただ……たったひとりのためにやってるだけかもしれねえのに……」


「誰かひとりのためだとしても、助かる人がたくさんいるのなら、それでいいじゃないか」


 ジェイクは困ったようにうつむく。


 もうその必要はないと思うのだが、ジェイクはおれからの罰を望んでいるのだ。


 生殺しにして苦しめるつもりもない。おれは落とし所を見つけ出す。


「君が納得できないんなら、こうしよう。『フライヤーズ』のリーダーとして、宣告する」


 ジェイクは顔を上げる。それに対し、かつて彼に言われたように告げる。


「ジェイク、君は追放だ。パーティからだけじゃない。この世から」


 そして【クラフト】の宿った『技盗みの短剣(スキルドレイン)』で、再びジェイクを刺す。


 先天的超常技能プリビアス・スキル【クラフト】がジェイクに宿る。『技盗みの短剣(スキルドレイン)』は砂になって崩れ落ちる。


 ジェイクは驚きのあまり、絶句してしまっていた。


「これでジェイクは死んだ。ここにいるのは聖女様に慕われ、勇者に友と呼ばれ、このおれが尊敬する義肢職人のバーンだ」


「シ、シオン……お前……お前! なんてことしちまったんだ! せっかく返せたと思ってたのに!」


「おれには、もういらないよ。おれの考えを形にしてくれる人がいてくれるからさ。それに、おれより君にこそ必要なはずだ。義肢は、使う人の体格に合わせなきゃいけなくて量産が難しいだろう? 【クラフト】はそういうときにこそ役に立つ」


「だからって……!」


「バーン、おれは君を信じて【クラフト】を譲るんだ。是非、君が助けたいと思う人たちのために役立てて欲しい」


 バーンは強く目をつむる。目端からとめどなく涙が流れ落ちていく。


「お前は、本当に……俺を許してくれるのか……」


「許すことなんてなにもないよ。罪人のジェイクは死んだんだ。あとは君自身が納得できる日まで償えばいい」


「すまねえ、シオン……。本当に、すまなかった!」


 再びこうべを垂れるバーンに、おれはただ頷きを返す。


 バーンはエルウッドやラウラにも頭を下げた。


「お前らにも、ずいぶん迷惑をかけちまった。すまなかった! 償えと言うならなんでもする。なんでも言ってくれ!」


「なんのことだ、バーン。オレたちは初対面のはずだろう」


 言って、エルウッドはおれやラウラに微笑を向ける。


「ま、そうね。殺された本人が許してるんじゃ、あたしらが言うことなんてないわよね」


 ため息混じりに肩をすくめるラウラ。


 聖女セシリーがバーンの背中を支えるように、手を添えた。


「これからも、一緒に頑張りましょうね。バーンさん」


 リック隊長はバーンの肩を叩く。


「私も及ばずながら助力する。必要なことがあれば声をかけてくれ」


 バーンはいつまでも、感謝と謝罪の言葉を繰り返した。

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