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頁 ←これで家造り

 先程引きちぎって放っていた顧の右側の『頁』をスティは拾う。くるりと逆さにして、棒と目を繋ぐ点をギュッと握った。


「これ邪魔」

ブチブチッ


 下の点二つを無造作に千切り捨てる。


≪もういちいち驚くのに疲れたわ。で、それで何するの?≫


 初めの神聖な雰囲気は何処へやら、女神はとてもフランクに少女に問いかけた。


「ノコギリに使う」


 そう言って彼女は先程切った樹木に『目』部分の側面を付ける。


ギコギコギコ……


 片手で棒を、もう一方で点を持って前後に動かす。非常に使いやすいノコギリである、便利。身体能力強化のスキルも相まって、あっという間に樹木は丸太に変わってゴロンと転がった。伐採したものを全てそうして、目的に足りない分を更に調達して大量の丸太をゲットだ。


≪あ、まさか家作ろうとしてる?≫

「そう、正解」


 半分に切った丸太の先端を『ル』から分解した左側の棒でザリザリと削って尖らせていく。数本そうしたらそれを大地にグサリと突き刺した。


「んしょ」

ペトッ


 先程千切った二つの点を元通りにくっ付けて『頁』に戻す。


≪あ、復元も出来るんだ≫


 与えた力なのにその詳細を女神は知らない、なんと無責任な話であろうか。しかし寛大なスティはそんな事を指摘したりはせず、作業を進めていく。クルリと逆さにして二つの点を持ち、地面に深く突き刺した丸太の頭を真上からゴンゴン叩き始める。


≪何してるの?≫

「土台作り。これの上に家を組み上げる」

≪へぇ~≫


 少女は物を知っていた。というのも村では様々な仕事に強制的に従事させられていたからだ。家造りもその一つ、手が遅いと殴られ蹴られしながらも木材加工を経験したのである。基礎工事が終了したら次は床を張り、次は壁を作る。


 『ル』を上手く使って丸太が組み合うように切り込みを彫っていく、器用だ。


「んしょ」


 『ふるとり』を横倒しにして『戸』の右側にくっ付けて、ハンマーとしてガツンと丸太を叩く。丸太を置いて叩いて組んで、それを何度も何度も繰り返すと頑強な壁の出来上がりだ。


 梁と屋根も必要である、スティはさっさと取り掛かった。


 壁の上に梁を渡してそこから上に柱を立てる。

 『頁』の目の一番上の口に丸太の切断面を引っ掛けてグイっと引くと、かんなで削るかのように十分な厚みのある板が切り取られた。屋根材を幾つも幾つも作り、十分な量が出来たら彼女はそれを持って建物の上へと登った。


 木釘きくぎという物がある、木材で出来た釘だ。強度的には金属の釘が欲しい所だが仕方ない、それを使って屋根を作る。とんかんとんかん、縮小した『戸+隹』で大工仕事をスティはこなす。


≪しれっと大きさ変えてるし……私の想定よりもステータスを活用してるわね……≫


 しばらくそうして、遂にそれは完成した。


「ふぅ、出来た」

≪すごーい≫


 手作り急造ログハウスだ、少女一人で作り上げたなど信じられない。女神は素直に賞賛の拍手をスティに送った。


「でも未完成」

≪そうなの?≫

「屋根、板張っただけだから。瓦がほしい」


 少し不満そうに少女は腕を組む。


「あと扉も無い。蝶番とか作るために鉄と炉がほしい」

≪え、あれば作れるの?≫

「うん。村の鍛冶をコッソリ見て覚えた」

≪凄いわね……≫

「元々、隙を見つけて人買いから逃げるつもりだったから当然」


 フンとスティは鼻を鳴らした。


 こうして彼女は魔物犇めく魔境で生活を始めたのだった。


 色々と問題もある、一人だからこその不安もある。しかし妙に逞しい黒髪少女スティならば、その不安も杞憂に終わる事だろう。女神は自分の思っていたストーリーとは違う展開に笑いつつ、これからも彼女の行く先を見守る事に決める。


 ステータス。

 その無限の可能性を手に、スティは魔境を生きていく。



― 完 ―

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