スズのスーツ姿
お久しぶりです。
カムロ【神盧】は数ヶ月ぶりでの投稿となります。
宜しくお願いします!
約束していた時間。
昼飯を食い終えて、集合場所にしていた東の防壁第八区画に行く。
俺とミコトが到着した時に、反対方向からノリトが大きなバッグを担いで歩いて来た。
「時間ピッタリだな…いろいろ揃える物が有るって言ってたから、もう少し遅れるんじゃないかって思ってたが」
「いや、ギリギリだった。
昼間から防壁の外に出る俺達を怪しまれないように、警備の人達を騙すのにも苦労したし、道具も目当てのヤツがなかなか無くて…スズは?一緒じゃないのか?」
「準備が終わってねえから先に行って待っててくれ、って言ってた。
いっその事先に行っちまうか?」
「別に構わないが…
アイツの脚なら間違い無く追い付かれるぞ。
そしたら殴られる時に、先に行けと言い出したのはお前だとチクるぞ」
そこでミコトが会話に割り込んできた。
「我が見に戻ってもよいが?」
「お前、何気にスズには優しいんだな…」
ミコトの話し方や態度を見ていると、スズに対しての時が一番柔らかな感じがする。
「今の世は、おなごに優しゅうせねばならんのであろう?」
(なるほど…伊達に町中を見て回ってた訳じゃないんだな)
「まあ…女に優しくするっていうのは、間違いじゃねえんだけどな。
アイツの場合、優しくするとどうしようもなくなるっていうか…俺の平穏が無くなるんだ…」
「来たぞ、多分アレだ」
ノリトが指差した方を見ると、こっちに来る人影が見える。
スキップしているのだろうか?
この遠距離からでも分かるぐらいの、常識では考えられない高さとスピードで…
やがてスズはみるみる近づいて来て、俺達の側でザザーッ、と急停止した。
「遅れちゃってゴメン!
でもほら、キマッてるでしょ?」
俺達の側まで来たスズが、嬉しそうに人差し指でメガネを押し上げる。
スズは何を思ったのか、コスプレに使っているスーツを着て、オマケにメガネまで装備している。(コイツの視力はシマウマ並だから、伊達メガネだ)
足にはスーツに合わせてパンプス(よく見ると動きやすいように、ゴム製のパチ物だ)を履いている。
「…そうだな…よく似合ってる。
それなら誰も田舎者だって思わないだろうな…」
確かに似合っている。
似合ってはいるが、スーツの意味が分からない。
俺とノリトが踵を返して歩き始めると、ミコトが俺のシャツをクイクイと引っ張って引き留めてきた。
「のう…スズがいじけておるぞ?
カツヤに何ぞ言うて欲しかったのではないのか?」
俺の反応がかなり薄かった為に、スズはテンションが急落したようだ。
「いいんだよ、一応褒めたんだ。
あんまり調子に乗ってると、スズは暴走するからな」
それを聞いたノリトも、頷いてから歩き出す。
「そうだな…遠足に行くんじゃないんだ。
真面目に気を引き締めて行かないと、怪我だけじゃすまないからな」
俺達が歩き出したので、スズもノロノロと後ろから付いてきた。
「せっかく2人が似合うって言ったからスーツでバチッと決めてきたのに…なんでそんな冷たいのよ…
だいたい、ホントはもっとカワイイ服の方が好きなのにさ…そもそもこの前大人っぽく見えて…しかも魅力的に見えるって言ったくせに…なんなのよぅ…(以下略)」
「スズが何やら邪念を吐き出しておるぞ?
もう少し構ってやらぬか?」
(確かにこのままだと、邪念に続いて怒りが溢れ出しそうだな…
しかし、スズにだけ構ってる訳にもなぁ…)
「そうだ、ミコトが慰めてやってくれ。
俺とノリトはこの後の行動を話し合うから…」
そう言うと、ミコトは眉間にシワを寄せて、
「我が慰めるよりも、お主に構って欲しいのであろうが…」
納得がいかないようにブツブツ言いながら、スズを慰める為に一緒に歩き始めた。
「ねえミコトちゃん…私って魅力無いのかな…」
「そんな事は無かろうよ。
ただカツヤは、スズに近すぎる所に何時も居るでな…
灯台もと暗し、というものであろうよ」
「そう…そうね。
でもどうやったら意識してくれるんだろ…
これ終わって帰って帰ってきたら、夜這いでも掛けてみようかな」
「…スズも必死だのう…しかし、それでは逃げられるだけではないのか?」
「大丈夫よ、逃げられないように押さえるから」
「…それでは怯えさせるだけであろう…
そうではなく、手を変えてみるのだ。
押してダメなら引くと言う。追い詰めるだけではなく、カツヤに追いかけさせればよい。
それには、おなごとしての可憐さと恥じらいが肝要であろう」
「う〜ん…前に少女漫画みたいな事してみたんだけどね…カツヤ鈍感過ぎだし…」
そこまで言って、スズの声が変わる。
「それにしても、カツヤってばホントに手ぶらで来たのね…」
「動くのであれば、身軽な方が良いのではないか?」
「あ、そういう事じゃなくって…何も食べる物を持って来てない、って事。
今日中に都市に辿り着けるかどうかも分からないのに…
まったく、ホントに自分の事には無頓着なんだから」
「なるほどのう…あやつ、誠に己の事は頭に無いのだな。
食い物を考えないというのは、己の生死を考えないと同義であろう。
確かに、このままではカツヤはスズの言っていた通りにいずれ…」
「だからよ…だからこそ必死なの。
私がカツヤの生きる理由にならなくちゃいけない。
その為にはどんな事でもするわ…
夜這いだろうと何だろうとね」