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ようやくか…遅ぇよ…

学校を出て帰り道を歩きながら、何でミコトが札から出てきたのか考える。


まず、俺は召喚士じゃない。

適性検査でも引っ掛かりすらしなかったほど、素質が無いのはよく分かっている。

そもそもアレは召喚獣とは言えない。

人の姿をしている奴も居るには居るが、普通召喚された奴はあんなふうに自分の意思で喋ったりしない。

せいぜい召喚士、つまり自分の主の質問に答える程度しかできないはず…

ミコトのように無駄口を叩いたりもしないし、ましてや主の側を自らの意思で離れるなんて有り得ない。

それに、ミコトは600年ぶりに出られたって言ってた。

あり得ねえだろ…

そもそも、召喚獣が初めて確認されたのは世界に異変が起こってからのはずだ。

異世界の扉を開いた事が原因で魔獣が現れて、召喚獣も確認されるようになったんだから…


いろいろと考えながら歩いていたが、不意に後ろから声を掛けられた、


「カツヤ、片付けありがとう」


振り向くと、10mほど後ろのT字路から担任の内村がゆっくりと歩いて来る。

せっかく片付けを引き受けたのに今頃帰ってるのかと思ったが、その手には一抱えほどもある大きな包装紙がぶら下がっている。


(なるほど…プレゼントを買う時間ぐらいは稼げた訳だ…)


「ちゃんと毎年違うのを選んでますか?

ワンパターンだと嫌われますよ?」


「これでも慎重に選んだつもりではあるんだが…」


そう言って内村が俺の側まで来た時、


バシュッ…ドゴオォ


いきなり響き渡る轟音と共に、左にあった防護壁が吹き飛んだ。

とっさに身を伏せた内村が、俺に向かって叫んでくる。


「カツヤっ!なにしてる逃げろ!!」


しかし、俺は突っ立ったまま防護壁を吹き飛ばした原因を見上げていた。


5mぐらいしか離れていない場所に居るソレは、

体高約3m、分かり易い表現で言えば…

ティラノサウルス。

ただし、その体の表面は甲殻類のように硬い殻に覆われている。


「二足脚竜の甲殻型魔獣か…厄介だな。

いや、それよりも厄介なのは…」


独り言をつぶやいていた俺の腕を、内村が強引にひきよせた。


「なにしてる!死にたいのか!?」


「先生こそ早く逃げるべきです。

別に死にたい訳じゃないんですけど、もうアイツと目が合っちゃいましたから…今俺の方から目を背けて逃げ出したら、確実に俺を襲ってきます」


魔獣というのは野生の猛獣のようなものだ。

目が合った時点で自分よりも確実に強い相手だと判断すれば、直ぐに逃げ出す。

しかし、自分と同じぐらいかそれ以下の力しか相手が持っていないと判断すれば、先に相手から目を逸らした方が負ける。

逆に言えば、相手から目を逸らさない方が安全と言える…確実とは言えないが…


ウゥーッウゥーッウゥーッ…


魔獣の襲来を報せる警報が響き渡る…


「先生、娘さんの誕生日なんでしょう?

早く帰らないとだめですよ」


「そんな事言ってる場合か!」


内村がそう言い終わるか終わらないかのうちに、


ジャッ!


鋭く空気を裂く音と共に、内村の体が魔獣の尾に弾き飛ばされて、人形のように転がる。


「ぐうぅっ!!」


うめき声を上げて右腕を押さえる内村、その袖は鮮血に染まっていく。

だが俺はそれを見ない…

まだあの魔獣が俺から目を逸らしていないから、内村の怪我を確認する事ができない。


(クソ…だから逃げろっつったのに…

早いとこ手当てしないとまずいな、大人だろうとキツイだろ。

だがすぐには無理だ、コイツが居やがる…

しかたねえか!)


俺は素早く頭の中で設計図を組み立てると、魔獣に向かって駆け出す。

俺が駆け出したのと同時に、内村を弾き飛ばした魔獣の尾が横薙ぎに襲い掛かってくる。

それを目の端に捉えた瞬間にわざと前のめりに転んだ。

体の上を尾がうなりを上げて通り過ぎる。

俺は転んだ勢いをそのままにして起き上がると同時にスピードを殺さずに駆ける。

魔獣の体長に比べて尾はかなり長いが、この場合それが仇となる。

力任せに横方向に振り切ってしまえば、その長さ故に再び振り戻すには若干のタイムラグが有る。

その間に俺は魔獣の1m手前までたどり着き、再び尾が横殴りに来ると予想したタイミングで、今度は転ばずにその場にしゃがみ込んだ。

そこにあった細長い鉄の杭を握る。

防護壁の補強に使われていた物だ。

ここまでは俺の設計図通りだったが、俺が杭を握っても魔獣の尾は体の上を通り過ぎない。

俺は即座に上を見て舌打ちした、


「クソ!縦かっ!」


俺はしゃがんだままの体勢から無理やり横に転がった。


ガシュッ!


上から鞭のように尾が振り降ろされて、地面をえぐる。

どうにか躱せたと思ったが、脇腹に鋭い痛みが走った…


「痛えだろがっ!!」


そう叫びながら痛みを無視して魔獣にしがみつき、更によじ登るように体を引き上げる。

振りほどこうとする魔獣の腕が左肩と背中の肉を引き裂くが、その痛みも無視。

ここでコイツの体から離れてしまえば、おそらくは打つ手がなくなる。

だから怪我にかまってる場合じゃない。

狙うのは1ヶ所、この魔獣の首の根元。

外骨格の生き物は、身体の表面の頑強さが強みだが、どうしても柔らかな部分が必要だ。

外殻と外殻の繋ぎ目として身体を動かす部分、つまり関節ならば刺せる。


ズシュッ…


魔獣の首に杭を突き刺し、全力で押し込む。

青緑色の血が噴き出すのを確認してから、魔獣が叫ぶ間に素早くその体から離れた。


(もしかしたら致命傷には至らなかったかもしれん、先生を担いでとにかく逃げるか?)


そう考えた時、


ガガガガガガガガガガガッ…


連続した発砲音と共に、何人かの慌ただしい足音がした、

振り返ると6人の警備兵が到着したところだった…

2人は内村の手当てに当たり、残る4人で魔獣にとどめを刺すべく銃弾を浴びせ続ける。

それを見ると急に緊張が解けて、激痛が襲ってきた。


「ようやくか…遅ぇよ…」


俺はダルくボヤきながら、内村の側に歩いて行った。


俺は魔獣が死んだのを見て、簡単な応急手当てだけしてもらうと、警備兵のおっちゃん達に内村の事を任せてさっさと帰った。

正直、かなりしんどかったからだ…



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