俺は、ノリトが羨ましかったんだ…
お疲れ様です。
カムロ【神盧】はこの話で終幕となります。
短い物語でしたが、読んでくださった皆様には本当に感謝申し上げます。
次からの投稿は、【エスパーワールド】の続きを書いていきます。
宜しくお願いいたします!
俺が意識を取り戻し、目を開けた場所は…
お湯の中…だった…?!
「ぶはっ!ぐっ…げっほっ…がはっ…!」
混乱してむせながらお湯から顔を出し、ぜぇぜぇとどうにか息をしながら周りを見ると、そこは…
「はあっ…はあっ…風呂場?何で風呂場?
しかも、ここは俺らの?」
そこは、俺達がいつも入っている風呂だった。
「いつの間に帰ってきたのか?
しかし、どうやって?」
今の俺の格好は、トランクス一枚。
訳が分からずに湯船から出た時、スズが入って来た。
全裸で…
「あ、目を覚ましたのね!
湯加減どう?」
「アホかっ!
せめて隠す所を隠せ!
いや違う何か着やがれ!
その前に出て行け!」
直ぐに後ろを向きながら湯船に入り、俺が怒鳴りながら言うと、意外にもスズは抗議せずに風呂場の扉が開き、そして閉まる音がした。
「…大人しく出ていったか…」
そう言いながら俺が後ろを振り返ると、さっきと同じ場所にスズが立っていた。
同じく全裸で。
唯一の違いは、心底楽しそうに唇を三日月みたいに歪めて笑っている事。
再び最速の動きで壁の方を向き、必死こいて怒鳴った。
「何でまだ居るんだよ!?」
「え?だって出て行ったフリしただけだもん。
戸を開いて閉めただけ」
「ふざけた事ばっかり頭使いやがって!
何がしたいんだよ!」
「どうして欲しい?」
「さっき言っただろが!」
「さっきのは全部却下。
お風呂に入りに来たんだから、裸は当然でしょ?」
「俺が居なかったらな!
そうか、俺は馬鹿だ。
お前が出て行かないなら、俺が出て行く」
スズに背を向けたまま言い争っていた俺は、スズの体をできるだけ見ないように下を向いて湯船から出ようとするが、湯船から出る前にがっちりと肩を掴まれた。
「一緒に入る為にカツヤを湯船に浸けたのよ。
出るのも却下。
その代わり、最後の一枚だけは脱がさなかったわよ」
そう言って力で強引に俺を湯船の中に座らせると、俺の体を押さえつけたままスズも湯船に入って来た。
しかも俺を押さえつけたまま座る為なのか、もしくはわざと俺の背中に抱き着いてきた。
背中に恐ろしく柔らかいスズの胸が張り付き、しかも俺の脚を太腿で挟んできやがって、その太腿の感触もヤバかった。
どうにか拘束から逃れようとするが、ビクともしやがらねえ。
「こっ、このバカヤロウ…背中に、当たってんぞ」
「ンフフフフ…な、に、が…あたってるのかな〜?
やっぱり大きくて良かったかもね♪
カツヤってば、耳まで真っ赤にしちゃって…カ〜ワイ♡」
震えている俺の声とは正反対に、スズの声はこの上なく嬉しくて楽しそうだった。
そのままの体勢で、スズはここに至るまでの状況を説明し始めた。
俺が状況を理解できないのも無理はない。
気絶させた俺を背負ったまま、スズは最速で一切の無駄無く動いて、邪魔な都市の兵士達を蹴散らし、都市を出てからは魔獣を殴り飛ばしながら、山も川も関係なく最短距離を通って俺達の家に帰り着くと、俺の目を覚ます為にトランクス一枚にして、湯船に俺を投げ込んだらしい。
「あんまりだろが!もっと普通に起こせ普通に!」
「ん〜ダメね…これ以上楽しい状況が思い付かなかったもの」
「…そりゃお前にとってだろうが」
必死に抵抗を続けていたせいで、俺の体力と筋力に余力が無くなった…自然と声も疲れた声になる。
「嬉しくないの?ぜんぜん?…やっぱり、私の事キライ?」
耳元でするスズの声が、ちょっと悲しげなものに変化した。
「嫌い、とかじゃなくてだな…」
「オッパイが大き過ぎてイヤ?
やっぱり魅力にはならない?」
寂しそうに言うスズの腕からは、もうほとんど力が抜けていて、いつの間にか俺の体をただ抱き締めているだけだった。
なのに、どうしてか俺は湯船から出る事ができなかった。
「そういうわけでも、ねえよ…」
「なんちゃってね♪…冗談よ」
急にスズが楽しそうに弾んだ声を出した。
「からかうなよ…一応言っとくけど、スズを嫌いになんてならねえよ」
「じゃあ、愛してる?」
「からかうなって言ってるだろ」
「今のはかなり本気なんだけど…」
「恥ずかしい事言うんじゃねえよ…」
「2人っきりだよ、今は…」
「…スズと離れたくない…これで、良いか?」
「声が震えてるよ?もう一回言って?」
「もう言わん」
「いくじなし…」
「そんな事言うなら、やっば嫌いになるぞ?」
「イジワル…」
「お前がこんな事するからだ」
「だって、カツヤと離れたくなかったから」
「物理的に?」
「からかってる?」
「仕返しだ」
「う〜…ゴメンね…でも、カツヤにくっついていたかったのはホント。
だって、本当に怖かったのよ…
ノリトに撃たれて、カツヤが倒れた時…
カツヤが死んじゃうんじゃないかって…
まだ怖いのが消えないの」
「だから俺が絶対に離れないように背負って、少しでも早く帰りたくて、最短距離で帰ってきたのか?」
「うん」
「んで、帰ってきてもまだ怖いのが消えないから、少しでも早く俺の声が聞きたくて、俺を湯船に浸けたのか?」
「うん」
「それでもまだ怖いから、こうしてくっついてるのか?」
「うん…どうせ私は性格もお子様よ…だから、怖くなくなるまで…このままでいさせてよ」
「…なあ、スズ…俺は…もうすぐ…」
俺を抱きしめているスズの力が瞬間的に強くなって、俺は自分が言いたい事を最後まで言えなかった。
いや、スズが言わせなかったのか…
「言わないで…今ソレは言わないで。
そんなの聞きたくない…
いつか、カツヤが…病気で死んじゃうとしても…もうすぐそうなっちゃうとしても…
今はまだここに居るもの…
私とくっついて…こうやって喋ってくれるカツヤが居るもの…
お願い…自分で死ぬなんて言わないでよ」
スズが俺の背中におでこを付けたまま、泣きそうな声で言う。
その時、
「死なぬぞ」
あいも変わらず不遜な声と共に風呂場の戸が開いて、スサノオが風呂場に入って来た。
「カツヤは死なぬぞ」
スズは、そのスサノオの言葉に呆けたように少し口を開けて、何も言わない。
だから俺が聞いた。
「何を言ってるんだ?」
「カツヤの怪我を治してやったであろう?
二度もな…
あの時、我は別にどこの怪我をどうやって治す…とは考えておらなんだ。
面倒だからな…
何も考えず、ただカツヤの体を全快させたに過ぎぬ。
分かるか?
【全快】させたのだ。
怪我であろうと、病であろうと、関係無くな」
「そうか…そういう事か…」
俺が納得したところで、呆けていたスズがいきなり俺の頭を掴んで、捻じるように俺の顔を自分の方に向けさせた。
「いでででででっ…!」
あまりの痛みに、俺は体を動かしてスズの正面を向き、文句を言おうとして…
言えなかった…
スズが真顔のまま、ボロボロと泣いていたから…
(こんな顔をしてたら、文句なんて言えねえだろう…)
俺は仕方なくスズを泣き止ませようとして、それもできなかった。
大粒の涙を流しながら…スズがその震える唇で…
俺の言葉をふさいでしまったから…
それが、俺達にとって…初めての口づけだった。
それからしばらくの間、俺は風呂場から出られなかった。
嬉しさのあまりに力の制御を忘れたスズに絞め殺されそうになったり…
「さっきしたんだからまたキスしてよ!
1回も2回も100回も同じでしょ?
キスさせてくれなきゃ、また気を失うまで強く抱きしめてあげるんだから!」
こういうのが、ラブコメ展開というのか?
ようやく風呂場から上がっても、スズは俺の側から離れようとしない。
というか、離してくれない。
スズの部屋でスズが寝入るのを待ってから、どうにか俺の部屋に戻る。
「さすがに疲れたな…あれじゃあスズはしばらくの間あの調子だろうな。
う〜ん…平穏な日々よ、早く俺のもとに訪れてくれ」
部屋の中で力なく呟いていると、スサノオが俺の肩を叩き、珍しく労いの言葉を掛けてきた。
「まあ、しばらくはつきおうてやれ。
スズが落ち着けば、お主の望みは叶うであろう」
「まあ、スズはおさまるのを待つしかないけどな。
多分、都市の連中…近い内に報復に来るんじゃないか?
あれだけ仲間をよそ者に殺されたんだ…復讐に来るのが自然だろ」
「その事であれば、心配は無用だ」
「…?…何かしたのか?
もしかして、神の力とかで滅ぼしたとか?」
怪訝な顔で聞く俺に対し、スサノオも怪訝な顔で答える。
「そんな事はせぬ。
まあ、それも考えはしたのだがな。
滅ぼしたつもりが討ち漏らしがあってはいかぬからな。
もう少し手っ取り早く済ませてきた」
「何したんだ?」
「元に戻してきた」
「…は?」
「元に戻したのだ、全てをな。
いちいち見回って戻すのは面倒だったのでな。
あの都市の時間軸だけ、今日一日を無かった事にしてきた。
もう少し詳しく言えば、今日の朝と明日の朝を繋げてきた…今日を省いてな。
つまり、今日という日はあの都市の連中にとって存在しておらぬ。
無論、人だけではなく壁や建物の時間的経過も、今朝の時間軸が明日の朝に繋がる為に、竜族やお主らが散々破壊した所も、今朝の状態で繋がる。
つまりあそこの連中にとっては、いつも通りの何も起こらぬ【今日】を過ごす事になる。
壺の力が無ければ、さすがにここまでの事はできぬがな。
無理をしたせいで、我の力はほとんど残っておらぬ。
おそらく一年ほどは、何もできぬであろう。
都市で一つだけ違うのは、あの壺は今我の中に有るのでな…偽物を置いて元の時間軸で固定してきた。
元々アレを動かせる人間など、あの都市には居らなんだからのう。
動かす事ができなければ、偽物だとバレる事もあるまい」
「…無茶苦茶だな…
だが理屈は分かった、で…ノリトはどうした?」
「そのまま置いてきた」
「…じゃあ、もうあいつは…」
「うむ、今やノリトは何処にも居らぬ。
ノリトは今日のあの部屋で死んだままだ。
今日という日が存在しなくなれば、あ奴の存在は記憶の中だけという事になる」
「…ノリトの死に顔は、見たか?」
「見たぞ」
「教えてくれないか」
「ふむ、カツヤがケリを着けたからのう…お主には教えねばならぬな。
満足そうな顔をしておった。
これは我の私見だがのう…ノリトはその存在の全てを賭して、お主らに勝ちたかったのだ。
ノリトからすれば…いつも共に居るお主らが、あまりにも遠かったのかもな」
「……そうかよ…
だからあんな理由を言ったのか。
ノリトにしては、力を得て町を思い通りにするってのは、なんか薄っぺらいと思ったんだが…
スサノオの言う事がノリトの本心だったとしたら、そりゃあ言わねえわな…
何が何でも俺とスズには…
それをあの時口にするのは、アイツの自負心が許さねえだろう。
俺達とのケリが着く前にソレを口にしたら、それはノリトにとって負けを認めるのと同義だからな…」
「ノリトがお主らに勝ちたいというのは…お主にとっては、皮肉な話かもしれぬがな…」
「…ああ、クソッタレ…
俺は、ノリトの事を羨ましいと思っていたんだ…
ノリトみたいになれたら…ってな」
前書きと重複しますが、この物語を読んでくださり本当に感謝申し上げます。
エスパーワールドも宜しくお願いいたします!




