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カムロ 〈神盧〉  作者: 碧鬼


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その顔だけは見たくない…

スズとスサノオの所まで行くと、スサノオが声を掛けてきた。


「良くやった…と言いたいが、大丈夫なのか?我の言った事は忘れておらぬか?死にはせぬであろうな?」


スサノオが褒めているのか、心配しているのか、もしくは俺が言われた事も守れないような馬鹿だと言っているのか、よく分からない言葉を言う。


「うるせえな、まだ死んでねえだろうが…しかし、あとどれくらい掛かるんだ?

長く掛かるようならマズイかもな」


スサノオはちょっと考えて、


「あと5日は掛かると言ったら?」


「…それ本気か?」


「戯言だ。もうあといくらも掛からぬ」


(コノヤロウ…)


「それにしても、あの剣なんなんだよ…

斬れ味が良いにもほどがあるぞ?

最後のなんか、あの斬れ味がなきゃ思いつかなかった。

斬るならまだしも、投げた剣がドラゴンの腕ごと貫通するなんてな…」


「我の扱う剣だからのう。

である以上、我が斬ると決めたものが…例えそれが金剛石であろうと神の創った結界であろうと、斬れぬでは我慢ならぬ。

剣の意味が無いであろう。

あれしきの斬れ味がなくては、格好がつかぬ」


「まあ…流石は神様ってとこか」


「にしても、それだけの怪我をしておる割に、よく舌が回るのう」


「血が流れ過ぎて、黙ってるとそのまま意識がなくなりそうなだけだ」


そう言って、俺はスズを見る。

身体の怪我は全て塞がっており、全身血まみれという事を除けば、寝ているようにしか見えない。

その顔に視線を移した時、ピクリとスズの瞼が動いた。


「おい!今瞼が動いただろ?

もう助かったのか?」


「ふむ、もう息を吹き返しおった。

意識が戻るのはまだしばらく掛かるであろうが…」


スサノオが最後まで言う前に、俺はその場に腹這いに倒れた。


「ぬ…カツヤ、そのまま寝ては…その怪我では死ぬぞ?」


「ああ、スズが助かったからな。

さすがにもう限界だ…俺がくたばったとしても、それは俺が弱いからだ」


「あれだけの奴を相手にしても、一切の言い訳をせず己の弱さを嘆き、死ぬ事に対しても己の弱さを理由にするか…

天晴と言うところであろうが、このたわけ!

己が意志を取り戻したというのに、相変わらず己の命には執着が無いか?

なればこそ…竜族を相手にしても一歩も引かなんだのであろうが…スズの意志は見捨てるのか?」


「…スズの?」


「カツヤ!!

何故己が体を治せと言わぬか!

そのまま死んだのでは、スズの想いは…」


「カツヤっ!」


スサノオの言葉を遮るようにして、スズが俺の名を叫びながら跳ね起きた。

そして俺の姿を見るなり、


「ちょっと…どうなってるのよ!

なんで私の怪我は治ってるのに、カツヤってば怪我が酷くなってるの!?

ノリトは!?

あ、ミコトちゃん!

どうなってるの!?」


「…驚いたのう…

普通は起きるのに何日か掛かるのだが…

カツヤは一度治したが、スズを助ける為に再び怪我を負った。

スズは一度死んでしもうたからのう。

それを我が助けておる間にノリトの相手をして、怪我を負ったのだ。

ノリトは、カツヤがケリを着けおったぞ」


「私をミコトちゃんが治してくれたの?

だったらカツヤの怪我も治して!」


スズは俺の体を抱きかかえて、必死に懇願する。

それに対してスサノオは、


「この世に顕現したこの世界とは別の存在には、ある程度の条件があってのう。

それだけは、如何に我といえども違える事は叶わぬ。

我がこの世において定めた条件とは、我を顕現させた者以外の令は、例え何であろうとも叶えぬ…というものでな。

スズから言われた、荷物程度の事ならば構わぬが…

怪我を治すというのは、世の理を変えるものだ。

そういう願いになれば、定めた条件を満たさねばならぬ。

これを違えれば、我がこの世界でした事の全てが消え失せる。

スズも再び死んでしまう」


「…だったら、カツヤが自分で傷を治せって言えばいいの?」


「そうだ、はっきりとした意志をもってな」


それを聞いたスズは、俺の頭をガッチリとつかんで強引に自分の目を俺の視線に合わせた。


「さあカツヤ!

ミコトちゃんに怪我を治してって言いなさい!」


「…俺はノリトとケリをつける為に怪我をした…俺が弱いから…」


「弱い訳ないじゃない!!

じゃあなんで私の事は助けてくれたのよ!?

今だけじゃなくて、お父さんが死んだ時も、カツヤは私と一緒に居たいって言ってくれたじゃない!

カツヤにとっては、自分勝手な言い訳で私を引き留めたって…そう思ってるのかもしれないけど…どうせ知らないでしょ!?

私がどれだけ嬉しかったか…

あの時、感情を抑えられなくて怒鳴り散らして、酷い事ばっかり言ったのに…

それでも私の手を握って、私と一緒に居たいって言ってくれた。

私が私でいられるうちに、私の気持ちを守ってくれた…

だから…今度は私のわがままを聞いてよ…

カツヤが居なきゃイヤ…

そうじゃないと…私は私じゃなくなっちゃう…

あの時私の心を奪ったクセに…責任とってよ…

お願い…今度も私の気持ちを守ってよ!」


お互いに息が掛かるくらい近くで、ボロボロと涙を零すスズの顔は…あの月の夜、あの背の高い草の中で泣いていた顔だ。


(この顔は…俺が一番見たくなかった顔だ…

スズがこんな顔をしなければならないのなら…そんな世界なんて消えてしまえとさえ、思った顔だ。

スズが泣き止んだら、そうしたら俺も嬉しくなったのに…なのに、今は俺が泣かせてしまってる…)


「スズ…泣くなよ…どうかしてるな俺は…

その顔だけは見たくない、そう思ってたのにな…

スサノオ、俺の怪我を治してくれ」


「やれやれ、ようやく思い出したか?

己の生きる理由というものを…

普通の人の子であれば、生きるのに理由も何も無いのだが…

まあ尤も、大した理由も大義も無く、ただ生きておる連中など、我にとっては何の価値も無いがのう」


そう言いながら、スサノオが俺の怪我を治していく。


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