スズは…
スズは、培養液の中で生まれた。
普通の人工授精ではなく、ある目的の為に幾つか設計されたプロトタイプの一つとして造りあげられた。
その目的とは、魔獣を相手に単体で、しかも身体能力だけで圧倒できるだけの戦力を持った、対魔獣用の生物兵器を生み出す事。
しかし当初、人を原型にしたタイプを造る事は計画に無かった。
確かに、人間の命令を認識できなければ戦力にすらならない為に、DNAの種類としては脳の設計に秀でた哺乳類のものが最適ではあった。
だが、倫理的な問題…そして人間を原型とするタイプでは、身体の構造的に見てもそれ程の戦力になるものを期待できなかったからだ。
研究者達は、虎やライオン等の猛獣から始め…知能の高いイルカや猿まで試したが、どれ程遺伝子の設計を作り変えても、魔獣を圧倒できるだけの力を持ちながらも、人間の命令に従うだけの知能と従順さを併せ持つ生物を造り上げる事は叶わなかった。
残された可能性は人のDNAのみとなり、そして…時に科学の可能性とは、その最大の敵である常識と倫理を無視した場合に進化する。
人のDNAで造り出された6体のプロトタイプのうち、スズだけが細胞内における拒絶反応を起こす事なく胎児の大きさにまで成長する事ができ、そのまま順調に成長した。
そして、人の形を留めたまま単体で、その身体能力のみで魔獣を圧倒できるだけの戦力を持った生物が誕生した。
元から人間だったのを、無理矢理機械や薬物投与等で強化したのとは、根本的に異なるのだ。
スズが身体中に弾丸を浴びながら、強化兵を全て打ち壊し、数十人の兵士達をボロ雑巾のように薙ぎ払った頃、残りの兵士達は恐怖に勝てなくなってその場から逃げ去って行った。
その兵士達が
通路の向こうに見えなくなってから、スズはダクトのある部屋に戻った。
部屋にはいつの間に来ていたのか、ミコトが待っていた。
その姿を見た途端、スズはその場に座り込んで苦しげに大きく肩で息をする。
「また、随分と無理をしたのう…」
「……ッハッ…ハッゼッ…」
スズは答えられない程に苦しかった。
ミコトの言う通り、相当な無理をしたからだ。
いくら生物兵器として造られたとはいえ、それはあくまで対魔獣としてだ。
魔獣との戦闘であれば、これ程の傷を負う事もないが…いかんせん、銃弾による怪我を負い過ぎた。
いくら再生できるとはいえ、断続的に百発近い弾丸を身体中に受け、しかもその傷を次々に再生する…というのは、生物という構造上体力が持たないのだ。
これ以上の傷は、再生できないだろう…
それ程に、今の戦闘でスズは体力を極端に消耗していた。
「スズよ、ここまでするのは…前に言っておったカツヤの生きる理由とやらになりたいが為か?
ここまでして、カツヤを想うのは何故だ?」
ようやく息を整えたスズが、恥ずかしそうに照れた顔をしながら、理由を言い始める。
「私が、カツヤの生きる理由になりたいのはね…
私を人に戻してくれたのが…
私が人だと教えてくれたのが、カツヤだからよ」




