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桔梗の花を捧ぐ先  作者: 黎明
2章 白菊の日記

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9/12

イヌホオズキの宝物 後編

 

―――今日、姫様に会った。

久し振りに顔を見たが酷い顔色だった。体調が悪いのかもしれん、注意しておけ。

                                    N.


S.わかった。見舞いに行くべきか?


K.否、そんなことをしたら怪しまれるだろう。

取り敢えず使用人が近付く事の無い様に注意しておいて、何かあれば動くぞ。




 は、どういうことだ・・・?

 荒々しい手付きで数頁程を纏めて捲る。




―――姫様の頬を叩いたが、大丈夫だろうか。痛かっただろうに、それをこらえて・・・腫れていないといいんだが。

                                   S.

K.しっかり腫れてた。人の娘を遠慮なく引っ叩きやがって。ちょっとは加減しろ。


N.使用人達が言ってたぞ。「魔女に対してあそこまで堂々としているなんて、流石だ」ってな。後ろに控えてた黒髪の奴。使用人呼んであいつに氷差し入れさせといた。



 ‘‘姫様‘‘・・・?彼女の事か?でも、‘‘姫様‘‘なんて呼んでるところ見たことない。

 それに、‘‘人の娘‘‘・・・?その娘が彼女を指すのなら、この‘‘K.‘‘というのは




 氷の差し入れ・・・彼女の頬が叩かれた日にメイドの一人から渡されたけど・・・まさか


 更に数頁捲る。




―――私室の掃除してたら懐かしい物を見つけた。うちの子最高。あー、今すぐ抱き締めたい。

                                    K.


S.落ち着け。気持ちはわかるが、やると気味悪がられるぞ。


N.これまでの行動がなぁ。単純に気持ち悪いわな。




 どんどん頁を捲っていく。






 どういうことだ・・・?

 この本・・・この日記は三人の人間が交代で使っているらしい。それはいい。

 それよりも、この日記に度々出てくる``姫様``という単語。これは彼女の事で間違いないだろう。日記に書かれた``姫様‘‘を傷付けた日も、内容も、どちらも彼女が傷付けられた時と一致している。

 不可解なのは三人共、‘‘姫様‘‘気遣うような事が綴られている事だ。

 普通ならそうなのかと納得できるが、書き手の正体を考えると在り得ない。

 だって、彼らは彼女を嫌っていた筈で、憎んでいた筈で、恨んでいた筈で・・・なのに、どうして。書き手達は、どう読んでも‘‘姫様‘‘気遣っていて。自分が見てきた彼らの発言と正反対だった。


 これではまるで、()()()‘‘()()‘‘()()()()()()()()()()()()()()


 一度整理しよう。


 まず、よく名前が上がる‘‘姫様‘‘。これは日記の中で出てきた‘‘魔女‘‘と同一人物。それを示唆する言葉が書かれていた。そして、この国で魔女と呼ばれる存在は唯一人。


 アリア様だ


 不本意だが。それでも、彼女以外在り得ない。全くもって不本意だが。

 ここ百年程で魔女と呼ばれていたのは彼女だけ。もっと遡れば居るには居るが、この日記はそこまで古い物ではない。それに、これに書かれていた国のトラブルを見ても内容と日付、時系列までもが全く同じ・・・なんて事はないだろう。


 次に判りやすいのは『K.』だ。

 これについては、‘‘姫様‘‘が彼女の事を指している事が分かればそのままこれも解ける。

 『K.』は‘‘姫様‘‘の父親だ。日記内ではっきりと明記していた。

 となると‘‘人の娘‘‘という言葉も、「他人の娘」という意味ではなく「自分の娘」を指している事になる。‘‘姫様‘‘はアリア様の事。そして彼女の親は・・・王。正確には前王だが。

 そうすると『K.』を名乗る書き手は王だった、という事になる。それなら、国王の私室にこの日記が置かれていたのも納得できる。鍵を持っているのは王だけ。スペアキーも存在しない。そこに入ることが出来たのは所有者が王だったから。


 これに間違いはない、筈なんだが・・・違和感がある。『K.』は‘‘姫様‘‘を大切にしている。王は彼女を冷遇している。この違いはなんだ。


 ああ、解らないことが多い。王は彼女を、魔女を嫌っていた筈ではないのか。日記での王は娘である‘‘姫様‘‘を溺愛している。内容も、『K.』が書いている日は娘自慢で頁が埋まっていた。どういうことだ。王は何を考えていたんだ。

 自分で危害を加えておきながら心配している。何故。後悔もしている。ならやるなとしか思えないが。

 ・・・・・・今考えても何も解らないな。整理して、それから考えよう。


 正直『N.』と『S.』はあまり変わらない。どちらでもいいのだが、『N.』からしよう。


 日記から得られた『N.』の情報は、身体を動かすのが好きである事。特に剣術、そして馬術の腕が素晴らしい、と記載されていた。日記曰く、この国一番らしい。

 これを聞いてすぐに思いつくのは騎士団長。これもまた「前」と付くが。

 通常、王族付きとなる「近衛騎士」と国の軍隊を纏め上げる「騎士団長」は別に居る。のだが、「騎士団長」という立場でありながら国王付きの「近衛騎士」のどちらも務めていた存在。彼以上の剣の使い手は居ないから、という理由で特例として認められていたのだったか。

 少し乱暴な字。頭の出来は悪くはないが普通で、特別賢いという訳ではない。というのが見て取れた。

 日記の内容は‘‘姫様‘‘についてではなければ、書類仕事に対する不満か隊の騎士についてしかなかった。


 書き方にも癖が出る。筆跡や口振りからしても、『N.』は「騎士団長」だ。


 そしてもう一つ解った事が・・・・・・‘‘姫様‘‘を、大切に思っている。




 最後に『S.』。

 得られたのは書類仕事や計算等、頭を使う事が得意。そして、身体を動かすことが苦手である。という事だった。『K.』とは面白いくらいに対照的だ。日記曰く、国一番の頭脳の持ち主だとか。

 これで浮かぶのは宰相。

 以前、彼女に対する皮肉を言っている時にも言っていた。それだけではなく、城の使用人は勿論の事、城下町に暮らす者達も言っていたからそのイメージがあるんだろう。魔女差別主義者の中には、宰相様が言うんだから魔女なんだ。正しいんだ。と言っている者も居たくらいだから。

 また、宰相は現実主義者(リアリスト)としても有名であり、彼が言うなら本当に魔女なんだ。何か根拠があるんだ。そう納得する者も居た。実際は根拠なんてない言い掛かりだったが。

 読みやすい、癖のない字。内容や言い回しから頭の出来が良いのだろうと予想できる。


 言葉選びや、行動の日付。宰相と一致している部分が多過ぎる。『S.』を名乗る書き手は「宰相」。


 そして「宰相」もまた・・・・・・‘‘姫様‘‘を大切にしている。






 あれから私室に置かれた本棚を漁ると、他にも同じ日記が出てきた。

 一番最初の物はアリア様が生まれた日から始まっている。一日交替で「王」「騎士」「宰相」が書いている。

 三人共、生まれたばかりの幼い姫に夢中で、溺愛している様だった。それが変わったのがアリア様の母君、「王妃」が病死したところ。国民が「王妃様が死んだのは魔女のせいだ」と騒ぎ始め「処刑しろ」とまで騒ぎ立てた。三人はそんな国民から姫を守っていたが、姫を庇う三人を見た者達は「魔女が魔法を掛けた。洗脳した」と更に騒ぎ立てるようになってしまった。城で働く者達も処刑を望んでいたからだ。

 なんとか耐えていたが、そんな日々に限界が来てしまう。

 当然だ。彼らも仕事がある。一日中張り付いている事など敵わない。

 幼い姫を連れたままで仕事などできない。かといって使用人に預ける事も危険すぎる。

 そんな葛藤と、消耗した精神。疲れ切った彼らが出した決断が「姫を魔女として迫害する」行為だった。

 三人は姫を傷付け、自主的に閉籠るように仕向けた。彼女が外に希望を持たない様に。彼女が民衆の声を聞かないように。

 そして、その目論見通りに彼女は動いた。傷付いて、心を閉ざしてしまった。これ以上、傷つかない為に。最初から信じていなければ、裏切られても傷つく事はないから。



 どうして。どうして。どうして。他の方法はなかったのか。

 彼女の、為だった・・・。自分の為じゃない、彼女の為だった。

 彼女を、守る為だった。傷つけない様に。


 それはわかってる。でも


 ふざけるな、そんな感情が沸き上がって抑えられない。

 大切な家族に、信頼していた者達に裏切られて辛くないと、傷つかないと、本気で思っていたのだろうか。

 例え彼女の為でも、守る為であったとしても・・・・・・ッ・・・俺は、正しい事だったとは思えない。


 彼らの行動が正しいとは思わない。けど、そうするしかなかったというのは理解できる。他に方法はあったのかもしれない、けど、彼らはそれに気付けなかった。追い詰められて、原因となった彼女を遠ざけてしまった。

 追い詰められていた。でも、そんな状態でも彼女を守ろうとした。


 わかっていても、許せない。



 もし、彼らがこれを彼女に伝えていたら。

 もし、これをもっと早くに俺が知れていたら。


 こんなことを考えても意味が無いって、わかってる。



   ‘‘過去は変わらない‘‘



 その通りだ。王も、騎士も、宰相も、死んだ。彼女も、あの日に死んだ。


 過去は変わらない。ならば、憶えていよう。


 彼女を、彼らを、



 この魔女の物語に生きた者達の思いを










 ―――机に置かれていた最後の日記。

王が死ぬ前に残した、書き込まれている最後のページ


 そこに挟まれていたのは



 イヌホオズキの、歪な栞

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