【経緯編】星条旗
世界で何千万と人が死んでいるにもかかわらず、アメリカ国民の生活はあまり変わらなかった。唯一変わったことと言えば、男性がいなくなったことだろうか。
国中に楽観的な思想が広がり、今日も市民は砲弾を製造する仕事をしながら、生活を送っていた。日曜日には映画を見て、月曜からまた仕事。普通の生活を送っていた、いや、送らせていたのだ。ホワイトハウスは、言論統制を敷き、未だにアメリカが優勢だと思わせ続ける。唯一知るのは前線の兵士のみである。もちろん、前線からアメリカが劣勢であるということは噂話として漏れていたが、民衆は本当だとは思わなかった。いや、思いたくなかった。国民は戦場とは真反対の裕福な生活を送っていた。
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ルーズベルトは焦っていた。ロンドン陥落、モスクワ陥落、核爆弾の開発遅れ、そしてスターリンの訃報。
ソビエト連邦の降伏も噂されている。国民のような楽観論にはハマれなかった。最前線の戦況は日々変化していく。劣勢の方に。このようなことを考えている最中、そこに職員が大急ぎで、暗い顔で大統領執務室の扉をあげた。職員の話を聞くまでもなく、ルーズベルトは何の話か分かった。ルーズベルトは外にでて、ニューヨークの方を見つめた。「星条旗」を口ずさみながら。