投影
「そこにいるのは、ミリィか……」
皺枯れた、老人の優しい声音が聞こえてくる。老人はミリィを見つめ、少し驚いた様子を見せた。
「確かにミリィだが、大きくなったなあ……。わしの覚えているミリィは、こんなだったのにな……」
と老人は手を挙げ、自分の胸辺りを指し示す。にこにこと微笑を浮かべ、ミリィを見つめていた。
ミリィは、ゆっくりと頭を振った。
「本当にお祖父ちゃんなの? お祖父ちゃんは死んだのに……」
「ふむ」と老人は呟いた。
「そうか、わしは死んだのか……。いや、済まんかった。説明するのが遅かった。わしは確かにフリント教授だが、その記憶を転写した控えに過ぎん。わしの今の姿は、ガラスの管理人の身体を使った投影といっていい。とすると、わしがここで記憶を保存した後、わしの本体は死んでしまったわけじゃな。いったい、あれから何年が経ったのか……」
老人はちょっと顔を上げ、考え込むような表情になる。老人の目の前の空間に、ホログラフィーで文字が浮かび上がった。
──一〇二・〇二・一三……
数字は年数を表示しているらしく、老人の表情に驚きが弾けた。
「なんと! 百年以上も経っているのか! それじゃ、そこにいるミリィは……?」
「あたし、停滞フィールドに入ってたの」
ミリィの答えに老人は「ふむふむ」と頷いた。ミリィは堪らなくなったのか、老人の立つ壇に駆け上がろうとする。それを老人は片手を挙げ、制止した。
「待て! ここには、わしのためのフィールドが構成されている。お前が来たら、フィールドが乱れて、今いるわしの再現記憶も乱れてしまう。悪いが、このままにしておくれ」
再現されたフリント教授の言葉に、ミリィはがっくりと肩を落とした。フリント教授はパックの背後で呆然と見上げている原型の人々に目を留めた。
「その人たちは?」