入口
ざわざわざわ……と回りに生い茂る緑の葉むらがざわめき、地面の草が生き生きとした輝きを取り戻す。
パックが摘み上げていた小鳥に生命が蘇り、ばたばたと羽根先を動かす。びくっと、思わずパックが指を離すと、小鳥は鋭くひと声「ちちっ!」と鳴いて、空中に飛び上がる。
ごおっ! と、突風が巻き起こる。今まで凍り付いていた地球が目覚め、息遣いを開始したようであった。
「見て、あれを!」
原型の一人が空を指差した。
紺碧の空を、鳥の群れが編隊を作って飛び去っていく。
ルーサンが斥力プレート筏を引いて外へ出てくる。プレート筏にはサークが据えられていて、ディスプレイから感慨深そうな表情で周りの景色を眺めていた。
さくさくと地面の草を踏みしめ、管理人がパックたちに建物を指し示した。
「こちらへ……」
改めて見上げると、つくづく巨大な壁面である。一口で縦横千メートルの壁面といっても、見上げると頂上部は空の青さに溶け込み、左右もまた、地平線に溶け込んでいる。
見ていると、距離感がおかしくなる。近くに巨大な巡洋艦が停船しているから、やっとスケール感が保たれるようなものだ。
建物に向けて歩いていって、パックはかなりの距離があることに気付いた。建物があまりに巨大すぎ、すぐ近くにあるような錯覚を生んでいたのだ。さらに平坦な壁面が、その錯覚を助長する。歩いても、歩いても、まるで近づいてこないような気になる。
ふと振り返ると、原型の人々も同じような気持ちでいるらしく、どことなく虚ろな目付きで建物を見上げながらとぼとぼと歩き続けていた。
「あれ、入口じゃない?」
ミリィが小声で囁いた。何だか大声を上げることが、憚れるような雰囲気に包まれている。
真っ白な壁面に、ぽつりと黒い長方形が見えている。入口らしき黒い長方形のおかげで、やっと距離感がつかめた。
入口は縦二十メートルほど、横幅十メートルほどで、全体からすれば見失うほどちっぽけだ。パックは黒い長方形を頼りに、足を速めた。
ようやく一行は入口のすぐ側まで近づいた。先頭に立ったパックは、入口を見上げる。
真っ黒な内部は、真っ白な壁面と鋭く対比をしている。黒々とした内部に目を凝らしても、何も見えない。
ガラスの管理人は、さっさと先に入っていった。その姿が、溶け込むように内部に消えていく。
ごくり、とパックは唾を呑みこんだ。
気がつくと、ミリィがパックの手の平を掴んでいた。手の平に、ミリィの体温が伝わってくる。
パックは、ぎゅっとミリィの手を握り返す。二人は目を合わせた。
「うん」と、ミリィが頷く。真剣な目でパックを見つめ、口を開く。
「行きましょう!」
パックも頷き返す。
振り返ると、原型たちが緊張した表情で立ち止まっている。無理矢理どうにか、パックは原型たちに向け、笑って見せた。
「さあ、行くぜ! フリント教授の秘密ってやつに、お目にかかろうじゃないか!」




