地球
地下の一角に、巨大な超空間ジェネレーターが設置されていた。あまりに巨大で、宇宙船に搭載できる規模ではなく、その周りに幾つもの座席が用意されている。規模が巨大すぎ、それらの座席にパックが連れてきた原型の人々を配置するのに、斥力プレートを装備した飛行モービルを何台も利用しなくてはならないほどだった。
「こんなに沢山の原型の人間が必要なのか?」
ジェネレーターを見下ろす監視所で、パックはガラスの管理人に話し掛けた。
巨大なジェネレーターの総ての椅子には原型の人々が腰掛け、目の前のスイッチを熱っぽく見つめていた。合図があれば、一斉にスイッチに手を伸ばす態勢ができている。
ミリィは興奮した顔色で、目の前の作業を見守っている。ヘロヘロは子供のように、ぽかんと口を開けていた。猫のメイド姿のアルニもいたが、詰まらなそうに自分の髪の毛を弄くっている。
ガラスの管理人は頷いた。
「そうです。地球を超空間から呼び戻すためには、一人や二人の原型では足りません。あなたが連れてこられた百名の原型の人々の意思が必要なのです」
監視所のモニターに、ルーサンとタンクの中のサークが姿を表した。画面が分割され、新たな画面にサークの仮想現実での姿が表示される。画面のサークは笑いかけた。
「こちらは、すべて順調! 原型たちは全員、準備ができている。いつでも作業に懸かれるぞ!」
パックは頷き、叫んだ。
「よし! それじゃ、始めてくれ!」
サークは画面から命令する。
「超空間ジェネレーター始動!」
その瞬間、原型の人々は一斉に腕を挙げ、目の前のスイッチに手を伸ばす。百の指先が同時に、ジェネレーターのスイッチを入れた!
ジェネレーターにエネルギーが注入される。
パックは全身が揺すぶられるような衝撃を感じていた。ミリィも目を瞠り、驚きの表情を浮かべている。
「何があったの? 計画は失敗したの?」
ガラスの管理人は首を振った。
「いいえ、地球が出現したので、その引力が、この月に及んだのです。角運動量を地球に奪われ、月は再び、地球の周囲を巡る軌道に乗りました」
パックは興奮した。
「見せてくれ! おれ、地球をこの目で見たい!」
ガラスの管理人は腕を挙げた。
その合図に、控えていた他のガラスの管理人が目の前のスイッチを操作する。
天井が開き出した。
ミリィが心配そうに声を上げた。
「大丈夫なの? 外は真空よ!」
ガラスの管理人は安心させるように、ゆったりと手を振る。
「心配ありません。空間歪曲バリアの作用で、空気は保持されております。皆さんの見上げる先に、地球が見えるはずです」
その通りだった。
真っ黒な宇宙空間、角度にして三十度ばかりの中天に、真っ青な色をした球体が浮かんでいる。
パックは夢見るように呟いた。
「あれが……地球?」