フェルミ・パラドックス
天才物理学者エンリコ・フェルミ(一九〇一~五四)は、第二次世界大戦後の五十年代初頭、ロスアラモス研究所の昼食会で、あるひと言を呟いた。
「いったい彼らは、どこにいるんだろうね?」
昼食に同席していたフェルミの同僚は、すぐさま発言の厄介な側面に気付いた。話題の「彼ら」とは地球人以外の知的生命体、すなわち宇宙人の存在である。
この頃、世界中では「空飛ぶ円盤」について話題が沸騰していた。「空飛ぶ円盤」即ち未確認飛行物体《UFO》である。昼食会でそれが話題に上り、フェルミの発言に繋がったのである。
「彼ら」宇宙人は、どこにいるのか?
これには幾つかの前提が必要である。
まず第一に、地球が存在する太陽系は、銀河系でなんら特別な場所でないという「平凡原理」。地球の太陽は主系列のF型太陽で、銀河系ではなんら特殊なものではない。ゆえに、地球と同じような環境を持った惑星も、銀河では無数に存在するだろう。
それに加えて、銀河系を含む宇宙全体が数百億年という年月を経ていること。
従って、この宇宙には、地球と同じような知的生命体が溢れているはずだ。その中では地球人より数万年は文明が進んだ種族もいるだろう。ならばその内の一つの種族が地球を訪問していても不思議ではない。
だが、未だに地球に宇宙人が訪問したという、確乎たる証明はなされていない。さらには地球以外の知的生命体の証拠も、検証可能な形で存在していない。
これが「フェルミ・パラドックス」である。
理由は、いくつか考えられる。
一つ、存在はするが、まだ訪問はなされていない。宇宙の絶対的な広さが、宇宙人の訪問を妨げている。
二つ、訪問しているが、宇宙人は地球人が未熟なままなので、姿を隠している。
三つ、宇宙人の文明があまりにも進みすぎ、地球人には理解できないレベルに達しているため、確認できない──。
等々、無数の理由が提出されていた。
最も単純な理由が真実に近いという〝オッカムの剃刀〟に従うと、最も単純な理由は、この銀河系で知的生命体を発生させたのは地球が唯一つで、現在のところ地球以外に宇宙には文明が存在しない、というのが、それである。
地球は宇宙では、絶対的に孤独なのである。
では、なぜ地球人以外に宇宙で知的生命体は存在しないのか?