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座標

 空間に亀裂が生まれ、巨大な物体が通常空間に出現する。円環部分に四本のスポークを持った宇宙ステーションである。


 宙森だった。


 内部に数十万人の住民を抱え、それ自体一つの世界と形容していい巨大な物体が、なんと自力航行を成し遂げ、超空間ジェネレーターにより、ワープして来たのである。

 ハブの部分にある中央管理センターの、航法システムの座席に腰を下ろして、シルバーは前方を見つめている。

 そこには3Dモニターが浮かび、新たな宇宙空間の眺めを映し出していた。真っ暗な闇に散らばる星々の正面に、鋭く深紅に輝く一つの太陽が見えている。地球の太陽である。


 シルバーは感嘆の声を上げていた。


「宇宙ステーションもろとも、超空間ワープをするとは魂消たもんだ!」

 シルバーの背後の玉座から【大校母】が冷静な声で応じた。

「そなたの手に入れた座標が、ここです。さあ、シルバー、地球はどこですか?」

 シルバーは、つかつかと空間分析班のデスクに近寄り、コンソールの計器を操作していた要員に声をかけた。


「質量探知装置で、この太陽系の惑星を探し出すことはできるな?」

 計器を操作していた〝種族〟は昂然と頷く。表情にやや侮蔑感が浮かんでいた。シルバーの念押しに、気分を害したのだろう。その表情を見て、シルバーは「ここが自分の宇宙戦艦【鉄槌】の艦橋なら」と思った。部下にこのような顔つきなど、金輪際させたことはないのである。

 素早い手つきで、要員はディスプレイに太陽系を表示させた。真ん中に太陽である大きな円が浮かび、その周囲に幾つかの惑星が表示されている。シルバーは手に入れたデータを要員に示した。が、要員は眉を顰め、シルバーを見上げる。


「その座標には、居住可能な惑星は存在しません! あるのは直径三五〇〇キロほどの、大気を持たない岩の固まりです」


「まさかっ!」


 シルバーは珍しくうろたえていた。もしシルバーが普通の皮膚を持つ人間だったら、その顔がさっと青ざめていたことだろう。

 しかし、シルバーは表情を変えず、ただ声を鋭くさせただけだった。

「見間違いではないのか?」

 要員は呆れ顔になった。

「いいえ! 計器は正常、わたしの操作も間違いはありません。あなたの仰った座標に、居住可能な惑星は存在しません!」


 皮肉な笑みが浮かぶ。


「つまり、地球なる惑星は、存在しないのです」


「シルバー……」

【大校母】が怒りの声を上げた。

「どうするのです! そなたの地球はどこにある、と尋ねているのですよ! さあ、今すぐ答えなさい。さもなくば……」


 シルバーは要員の背後からディスプレイをじっと見つめた。次に命令するシルバーの声には、動揺など微塵も感じさせない。

「では、他に居住可能な惑星はないのか?」

「ありません! この太陽系には、居住可能な大気を持った惑星は存在しません」

 要員は間髪を入れずに返答をする。シルバーは、ぎゅっと拳を固める。これだけが、シルバーの焦りを唯一、表していた。


 シルバーは平坦な声で命令する。


「おれの【鉄槌】は、どこにいる? 【鉄槌】が超空間から転移したてなら、まだ空間にその航跡が残されている。それなら探知できるはずだな」

 要員は微かに恐怖の表情を浮かべていた。見上げるシルバーの顔つきに、抑えきれない怒りを認めたのだ。慌てて手元の計器を操作して報告する。

「それなら、判ります。さっき報告した、大気ゼロの岩の固まりに向かっています」

「ふむ」とシルバーは小さく頷く。【大校母】を振り返り、答えた。

「【弾頭】の航跡を辿る。ともかく、フリント教授の座標は間違っていないはずだ。これには、何か謎がある。それを解き明かすまで、しばらく待ってくれ」

【大校母】は悠然と頷いた。

「待ちましょう。しかし、いつまでも待てませんよ」


「判ってるさ!」


 シルバーは吐き捨てるように答える。怒りを堪えるのが難しいほどだ。もしここがシルバーの【鉄槌】だったら、今頃憤怒の咆哮を上げ、当たり構わず暴れまわっているところだった。

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