表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/127

ゴロス人

 中古宇宙艇販売屋の親爺はゴロス人だった。


 腕がなんと四本もある〝種族〟で、エンジニア向きの身体をしている。逞しい身体つきで、パックが店を訪ねたときは忙しく四本の腕を動かして、なにか機械の調整をしているところだった。


「宇宙船が欲しいんだけど」とパックが声を掛けると、親爺は上半身だけ捻じ曲げ、じろじろと疑い深い視線を投げかけてきた。


「宇宙船? お前さんが?」


 パックが頷くと作業の手を止め、尻のポケットからウエスを取り出し、四本の手についた油を拭った。口許に楊枝を咥えている。その楊枝をぷっ、と吐き出すと、新しいのを一本取り出し、また咥えた。

 二本の腕を腰に当て、一本を鼻のところへ持っていくと鼻頭をほりほりと掻き、もう一本で身体についた汚れを拭っている。


「ふーん、原型プロトタイプが宇宙船をねえ……」


 親爺の言葉にパックは怒りを堪えた。


「来な」とばかりに親爺は首をかしげ、店の外へ出た。

 出たところが駐機場になっていて、剥き出しの地面に数機の宇宙艇が停泊している。どれもこれも、恐ろしく古ぼけ、機体には宇宙塵がこびり付き、窓のガラスはまるで擦りガラスのようだ。

 それらを指し示し親爺は、べちゃくちゃと喋り始めた。


「こいつは五年前の型で、超空間ジェネレーターはバクラン・スリーパーの空間緊張位相タイプだ! 扱いやすくて、修理も簡単だ。部品のスペアも揃っているしな!」

 親爺の告げた値段に、パックはガッカリとなった。先ほど見たコマーシャルよりはかなり下がっているが、それでもパックの手持ち金では届かない。

 首を振るパックに親爺は次々と宇宙艇を案内していく。

「こりゃどうだ? 年式は古いが、出力は充分だ。値段は勉強してやるぜ」

 親爺の告げた値段にも、パックは首を振るだけだ。親爺は呆れて、尋ねる。

「いったい、幾ら持ってきているんだね?」


 パックは側頭葉に移植されている情報出力装置を働かせ、送信した。親爺もまた自分の情報装置を働かせ、パックと同期する。二人の目の前の空間に、情報装置が視覚部位に現出させる映像が浮かび出た。


「おいおい……たったこれだけで、宇宙艇を手に入れようって算段かね?」

 親爺は眉を下げた。顎を撫で首を捻った。

 パックは心細くなって尋ねる。

「無理かい?」

「無理もなんも、これじゃ、頭金にすら届かねえよ! それに、うちはクレジットはやっていねえしな。まあ、諦めるこった!」

 しょんぼりと両肩を下げるパックを見て、親爺は何か妙案を思いついたのか、にやりと笑いかけた。


「待った! いいことを考えた。あんた、宇宙船操縦の資格は持っているんだろうな?」


 パックは頷き、記録を見せた。数ヶ月前、宇宙船操縦資格の記憶移植を受けている。

 この時代、あらゆる資格は記憶移植という技術で植えつけることが可能だ。何年間もの年月習得が必要な技術、知識も、たった数時間で身につけることができる。記憶RNAを投与し、あとは下意識による直接刺激で、あっという間にものにすることができる。

 従ってこの時代、いわゆる学校教育は行われていない。あるのは、ごく少数の研究者、科学者のための研究機関であり、大部分の人間にとっては知識は簡単に手に入るものになっている。

 その中でも宇宙船操縦資格は人気のある資格だった。なにしろ宇宙船の操縦は、技術の裾野が広い。超空間をあつかう数学の知識にくわえ、宇宙船のジェネレーターの修理、操縦のための空間認識など様々な知識が一辺に身につく。必要なら資格者は工具を手にして、ばらばらの部品の山から一隻の宇宙艇を組み立てることすらやってのけるのだ。


 親爺は宇宙艇を並べている場所の後ろにあるスクラップの山を指差した。

「あの屑山には、宇宙艇を何台でも組み立てられるほどの部品が積まれている。あんたがその気になれば、あの中から必要な部品を見つけ、組み上げることだって可能だ。どうだい、おれはあれをあんたに任そう。あの中にあるものは全部タダで進呈するよ! あの屑の山を片付けてくれれば、あそこで見つけるなんでも、あんたに呉れてやるよ」


 呆然とスクラップの山を見上げているパックの背中を親爺は、どん、と叩き、大声で笑った。

「まあ、頑張りな! 十年もあそこで探せば、きっと一隻分の部品を見つけることもできるさ!」

 我ながらいい思い付きだとばかりに親爺はぐずぐずと下卑た笑いを続けた。笑いすぎて、親爺は咽せ返っている。目じりに浮かんだ笑い涙を拭い、親爺は鼻歌を歌いながら事務所へ引き上げてしまった。


 後にはパックが残された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ