表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/127

格納庫

 そろり、と物陰から顔を出し、パックとミリィは広々とした格納庫を見渡した。


 誰もいない。


 いつもなら、格納庫には数え切れないほどの要員や、来客、離着陸する宇宙艇など、ひと時も休まない喧騒が渦を巻いているはずだが、今は森閑として静まりかえっている。

 ただ、天井から投げかけられている照明だけが、寒々とした光を灯していた。その格納庫の床に、一隻の宇宙船が停泊している。

 楔形の、見るからに高性能な巡洋艦である。巨大なジェネレーターが船体のほぼ、半分を占め、無反動スラスターの砲列が、この宇宙船の性能を現している。

 パックは背後から覗き込んでいるアルニに向け、巡洋艦を指差して声を掛けた。


「あれがそうか?」


 アルニは無言で頷く。顔色は蒼白で、極度の緊張に目の瞳孔が黒々と開いているのが判る。

 パックは思い切って首を突き出した。

「誰もいない。空っぽだ……」

 呟く。ミリィがパックに囁いた。

「信じられないわ。お誂え向き過ぎる!」

 言外に「罠ではないか?」という含みがある。パックも同感で、頷いた。


「どうする?」


 パックは背後に付き従っている宙森の原型の人々を振り返った。

 皆、襤褸を纏い、今にも宙森の【大校母】の手先が現れるものと、覚悟を決めた恐怖の表情を浮かべていた。

 その中に指導者サークの身体を納めた透明なタンクを守る一団があった。

 大柄な巨人といっていい体格のバングと、いつも陰気な表情を浮かべているルーサンが、タンクを運ぶための斥力プレート筏を守っている。タンクには生命維持装置が繋がれ、一瞬も休まず、内部のサークの命を見守っていた。


 ごくり、とバングが唾を飲み込む。その顔には、ふつふつと脂汗が浮かんでいた。

「ここまで来たんだ! こうなったら、迷っている暇は一切ねえ……。行こうぜ!」

 パックは大きく頷いた。隣のアルニに顔を向け叫んだ。


「行くぞ!」


 ぱっと飛び出した。慌ててアルニが従う。

 ちょこちょことした小走りで、できる限り足音を忍ばせている。まるで盗人のようだ……とパックは思ったが、今からすることは、その盗人そのものだと、妙な箇所で皮肉な可笑しみが湧いてきた。

 なにしろ、宇宙船泥棒なのだ。

 先頭を走るパックとアルニの背後に、ミリィ、ヘロヘロ、それに宙森の原型の全員、およそ百名が、ぞろぞろと列を作った。


 巡洋艦【弾頭】のハッチに、アルニが辿り着き、素早くハッチを開くスイッチに手を掛ける。

 音もなく【弾頭】のハッチは開いた。


「開いたわ!」


 アルニは喜びの声を上げ、真っ先に艦内に飛び込んだ。バングとルーサンがサークの斥力プレート筏を運び込む。その後に宙森の原型の人々が続いた。パックとミリィはハッチの側で油断なく、あたりを見張っていた。

 ヘロヘロは艦内に入ろうかどうしようか、迷っている様子だ。ちらちらとミリィを見上げ、片足をハッチに掛けている。


 ようやく半分ほどが乗り込んだ時、格納庫に大声が響き渡った。

「やっぱり、こんなことじゃないかと思っていたぜ! お前ら、その宇宙船を、どうするつもりだ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ