〝伝説の星〟
意外な言葉に、パックは笑い出す。
「そりゃそうさ! そうじゃなくちゃ【呑竜】で、この宙森くんだりになど絶対やって来ないよ」
バングは目を光らせた。
「おれたち、この宙森の原型の唯一人、宇宙船の操縦ができる者はいない」
「えっ」と、パックとミリィは声を上げる。
バングとルーサンは揃って頷いて見せた。
ルーサンが唇を皮肉に歪めた。
「そうなんだ。ここにいる原型の誰も、宇宙船操縦の方法を知らないんだ。判るだろう? 元々、原型は、宇宙船に乗ろうと思えば、すぐ席が取れる。自分で宇宙船を操縦するなど、考えたこともないんだ」
パックは黙り込んだ。
そうだ、原型は普通なら、自分で宇宙船を操縦しようとは思わない。パックはサークに向き直り、尋ねた。
「そうか、それで、おれたちの協力が必要なんだな。宇宙船のパイロットとして」
画面のサークは破顔一笑した。
「そうだ! どうか、我々のために、宇宙船のパイロットになってくれ!」
パックは、どん、と自分の胸を叩く。
「任せろ! 全部を纏めて、面倒を見るぜ!」
ミリィは慌てて声を掛ける。
「パック……! 【呑竜】の燃料はゼロなのよ! どうするつもりなのよ」
ミリィの言葉にパックはショボンとなった。
「そうか……」
ミリィはおっかぶせる。
「それに【呑竜】に百名もの人たちを詰め込むことなんて、とうてい無理だわ。【呑竜】は小型宇宙艇でしかないし」
すると、それまで黙っていたアルニが声を上げた。
「それなら大丈夫よ! シルバーの【弾頭】なら、充分な大きさがあるわ! あれなら、百名くらい余裕よ!」
ミリィは眉を顰めた。
「あなたは?」
アルニは、ぺろりと舌を出す。
「いっけない! あたし、アルニ。実はシルバーの【鉄槌】で、あんたを見たことがあるの。ほら、あの晩餐会。あんた、ワインをたらふく飲んで、ぐでんぐでんに酔っ払ったでしょう?」
アルニの暴露に、ミリィは真っ赤になった。
「シルバーがあんたを追っかけて【弾頭】に乗り込んだとき、あたしを連れてきたの。超空間ジェネレーターの起動係としてね。だから、あたしなら【弾頭】の外部ハッチの封鎖を解除できる。まだシルバーが【弾頭】に戻っていなければ、あたしの個人指標を取り消してはいないはずだから、開けるわ!」
バングの唇がにんまりと横に広がった。
「決まったな! 早速、全員を率いて【弾頭】という宇宙艇のある格納庫へ出向こう!」
ミリィが呟く。
「それで、どこへ行くつもり?」
ミリィの投げかけた疑問に、再び全員が黙り込んだ。
沈黙を切り裂いたのはパックの叫びだった。
「決まってる! フリント教授の〝伝説の星〟だ!」
ミリィの目が見開かれる。
「パック……」
パックは勢いづいてミリィに迫る。
「なあ! 行こうぜ! ここの原型の人たちにも知って貰いたい。フリント教授は原型の人たちのために〝伝説の星〟……つまり、地球を見つけたってことだ! おれは知りたい。地球の秘密は何か? そして、おれたち原型がどんな重要な役割を果たすのか? ミリィ、君は知りたくないのか?」
サークが画面の中で「ほっ」と溜息をついた。
「フリント教授か! その名前は、わたしも耳にしている。もし教授が、そのような重要な秘密を〝伝説の星〟に託したのなら、わたしも知りたい。いや、知るべきなのではないだろうか?」
蒼白だったミリィの頬に徐々に赤みが戻ってくる。表情に決意が表れる。
「うん」と一つ頷いた。
「判ったわ! あたしだって、地球のことは知りたい!」
それまで気持ちよく気絶していたヘロヘロに、きっと向き直る。
「ヘロヘロ! 起きなさいよっ!」
ヘロヘロは仰向けになったまま、目をぱちくりさせた。ぴょこんと起き上がり、目を擦る。
「ん? な、何だ?」
ミリィはヘロヘロに鋭く声を掛けた。
「ヘロヘロ! 時が来たのよ! 今こそ、お祖父ちゃんの星図を開くときが……。あんたの記憶装置に隠した、データを開示させるから、しゃんとしなさいっ!」
ミリィの命令に、ヘロヘロはぴょんと全身を硬直させた。