下町
スカイ・パレスからパックの足は自然と洛陽シティの下町へと向かっている。
輝くようなビル群は、薄汚れた古ぼけた建物に場所を譲り、行き交う飛行モービルの型も、時代遅れが目だって多くなる。走路を歩く人々の服装も、パックと同じような実用的で、野暮ったいものに変化した。
ポケットに両手を突っ込み、前屈みで歩くパックの胸は嵐が吹き荒れていた。
お友達でいましょう……だって! 畜生!
なんだってんだ……。ただ、結婚を申し込んだだけじゃないか。
ぴたり、とパックの足が止まる。
目の前に立体映像で最新の小型宇宙艇のコマーシャルが展開されていた。
星空をバックに、すらりとした優美なデザインの宇宙艇が宙に浮かんでいる。その前には、透明な材料で作られた宇宙服を身に纏った一人の女性が宇宙艇の性能や、最新の設備を捲し立てていた。CM嬢の透明な宇宙服の下に見えるのは、かろうじて全裸ではないと主張できるだけの僅かな布地の服装であった。
浅黒い肌、人目を釘付けにする美貌。あきらかにミューズ人である。ミューズ人はあらゆる場面でタレントとして活躍している。
「これだけの装備で、今ならプライス・ダウンであなたのものに! クレジットは各社対応しております! どうぞ、お早めにお申し込み下さい!」
刺激的なファンファーレとともに、宇宙艇の値段が大きく表示された。金額を見て、パックは溜息をついた。
とても手が出ない。というより、最初から諦めている。
狙いは、中古の宇宙艇だ。数年落ち、いや値段が折り合えば十年落ちだって構わない。ともかく宇宙へ出られれば、それで御の字である。
パックには、当てがあった。
この近くに軍の払い下げの宇宙艇や、事故で壊れた宇宙艇を修理して販売している店があった。
ともかく宇宙艇を手に入れれば……もしかするとビーチャの気が変わるかも……。
パックはぐっと顎を引き締め、心覚えの場所を目指して歩き出した。