神経衝撃銃
指さされたヘロヘロは「へっ?」と、きょとんとしている。
「僕?」
片方の足を挙げ、指で自分を指す。シルバーは大きく頷いた。
「他に隠したとは考えられない! おれは、ミリィの【呑竜】をニュートリノ・スキャンで、虱潰しに調査した。その結果【呑竜】のどこにも、それらしきものは発見できなかった。となれば、他の場所に隠したと考えられる。では、どこに? 【呑竜】が隠れていた首都惑星ということも有り得るが、隠し場所が長い時間のうち失われる危険があった。となれば、もっとも信頼できるのは、そのポンコツ・ロボットの中だ! そのクズ・ロボットは、ミリィが生まれた頃から一緒だ。ミリィに対するヘロヘロの忠誠心は篤い。安心できる隠し場所は、そいつなんだ!」
ミリィは真っ青になっていた。その表情を見て、シルバーは勝利の笑みを浮かべた。
「やはり、図星だな?」
【大校母】が疑問を投げかける。
「それなら、すぐさま、そのロボットを分解して、メモリー・クリスタルを取り出せばいいではありませんか」
シルバーは首を振る。
「いいや、ただ隠されているのではないだろう。この娘のことだ。多分、情報を取り出す特別な方法を講じているはずに違いない。ただ単に、ばらばらに分解するだけでは、データは失われる危険がある」
ヘロヘロは慌てていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! どうして僕に、そんなデータがあるってことになるんだい? 僕、ミリィからそんなデータ受け取った憶えは全然ないよ!」
そっとパックは、ミリィに囁きかける。
「ミリィ……シルバーの御託、どういうことだい? あいつ、本当のこと、言っているのか?」
青ざめた顔を、ミリィはパックに向けた。こっくりと、一つ頷く。パックは、ぽかん、と口を開けた。
「本当なのか! 本当に、ヘロヘロに教授の情報を?」
にたにたと不気味な笑いを浮かべながら、シルバーはヘロヘロに詰め寄った。
「遂に見つけた! フリント教授の秘密を、お前が持っている……」
シルバーの勢いに圧倒され、ヘロヘロは、たじたじとなった。
「よ、よしてくれ! 僕、そんな覚えは一切ないんだ……」
くるりとミリィに振り返った。
「ミリィ! あいつに言ってやれよ! 僕、そんな大事な秘密、隠していないよね?」
ミリィは無言である。その顔を見上げ、ヘロヘロは絶望的に呟く。
「そんな……」
ぐっとシルバーは、ミリィに圧し掛かるように迫った。
「ミリィ、諦めろ! さあ、このポンコツのガラクタから、さっさと教授のデータを吐き出させろ! おれは、どんな手段を使っても、暴いてやるぞ。いいか、おれは、どんな手段でも取ってやる。これは、本気だ!」
ぎらぎらと、欲望に燃える目でシルバーはミリィを睨みつけた。ぐいと手を伸ばし、ミリィの胸倉を掴み、片腕一本で空中に吊り上げた。パックは堪らず飛び出し、シルバーの身体に武者ぶりついた。
「やめろ! シルバー!」
「煩いっ! 小僧、引っ込んでいろ!」
ぶんっ、とシルバーは片腕を振り上げた。パックは「わあっ」と叫んで空中に放り投げられる。空中を投げられたパックは、神経衝撃銃を構えたままの、蟻そっくりの兵士たちの間に飛び込んだ。
「ギチギチギチッ!」と、騒がしい鳴き声を上げ、ボーラン人の兵士はうろたえた。
シルバーはそれに構わず、片腕で吊り上げたままのミリィに顔を押し当てるようにして吠え立てる。
「さあ! データを教えろっ!」
「シルバーっ!」
パックの叫び声に、ミリィは目を丸くして叫んだ。
「パック!」
シルバーは振り返る。
パックがボーラン人の神経衝撃銃を奪い取り、構えていた。