通常空間
ミリィが話し終え、パックは溜息をつき、頭を振った。
何もかも、驚くしかない。
「それで……フリント教授の秘密の研究って、なんだろう? 地球という星に、それが隠されているんだろうか?」
パックの問いかけに、ミリィは「判らない」と言いたそうに首を振る。
「原型が重要な役割を果たす……フリント教授は、確かにそう言ったんだね」
顔に血が昇って、頬が火照るのをパックは感じていた。徐々に興奮が全身を包む。
「すげえ! もしそうなら、おれたち原型は〝種族〟に馬鹿にされなくなるんだ! ミリィ!」
思わずパックは両手を伸ばし、ミリィの手を握りしめた。
「その地球へ……伝説の星へ行こう! そして、教授の秘密の研究を見つけよう!」
ミリィは、目を瞠った。
「パック。本気なの?」
パックは大きく頷く。
「本気だとも! そんなすごい秘密を見つけられたら、おれは……おれは……」
自分の気持ちを的確に表すうまい言い回しを見つけられず、パックはしかたなく両手を振り回した。
拳を握りしめ、宣告するように叫んだ。
「おれは絶対、地球を見つけてやる!」
ミリィは首を振った。
「ちょっと考えさせて……」
パックは驚いた。
「どうしてだい? 君だって、知りたいんじゃないのか? 教授の秘密の研究」
「そうだけど……でも、シルバーのことがあるし……それが本当にあたしたち原型のためになるか、判らない。あたしもお祖父ちゃんの研究については、よく知らないの」
ミリィは目を逸らせ、船窓の超空間を見つめる。
パックはガッカリとなった。
「そんな……」
直後、船内に警告音が響いた。船が超空間から通常空間へ転移することを告げている。
船窓の眺めが変化し、宇宙空間になった。
新たな眺めに、パックは目を見開く。
「これは……凄い……!」
感嘆の声を上げる。
それは二重太陽の眺めだった。というより、かつての太陽のなれの果ての姿である。
主星は縮退物質でできた矮星で、その周りに伴星として中性子星が巡っている。矮星の残り少ないガスが中性子星へ流れ、プラズマとなって輝いている。
中性子星へ落ち込むプラズマは亜光速まで加速され、あらゆるスペクトルで輝き、周囲に撒き散らされた星間物質は中性子星から発せられる電磁波で刺激され、発光していた。
その発光した星雲状物質を背景に【呑竜】が目指す場所があった。
それは、宇宙に浮かぶ森であった。