ミリィの話
「さっきも言ったように、あたしはソリティア星系の第二惑星で、お祖父ちゃんのフリント教授と暮らしていたの」
ミリィが話し出した。パックはミリィが話を続けるうちに、徐々にミリィの存在がくっきりと明確化してきたように感じていた。それと、今まであやふやだった【呑竜】の船内の様子も、確かな実在感とともに蘇ってくる。
パックは真剣に耳を傾けた。
「お祖父ちゃんはそこで、あたしと、助手のシルバーというロボットと一緒に研究を続けていたわ。その研究とは、惑星の地球化なの」
ミリィの言葉にパックの眉がぴくりと持ち上がった。初めて聞く言葉だが、地球とは何だろう……? しかしパックはミリィの話に耳を傾けるのに夢中で、つい聞きそびれてしまう。しかしミリィはパックの心中を察したかのように問い返す。
「そう、人類の生まれた惑星は地球といって、原型の人間が暮らすには地球そっくりの環境が必要なの。パック、もしかして〝地球〟という言葉を聞いた覚え、ないの?」
パックは頷いた。
「初めてだ。地球で……その、人類が生まれたと言ったな? じゃあ〝種族〟は?」
「それじゃ、なぜ、あたしたちが〝原型〟と呼ばれているの? 原型から遺伝子を遺伝子エッチング・マシンで改造したから〝種族〟が生まれたのよ。あたしたち、原型がいなければ〝種族〟もいない理屈じゃないの」
ぱしん、とパックは自分の額を平手で打った。そうだ、当たり前のことじゃないか!
「ソリティア第二惑星は、地球にそっくりの惑星だったわ。住民は農業で生計を立てていて、主な輸出品は農産物だったの。高級品で、大部分は首都惑星の洛陽に輸出していたのよ。お祖父ちゃんはもともと洛陽の、帝国科学院に所属していた科学者だったんだけど、引退してソリティア第二惑星で独自の研究生活に入った……。けど……」
ミリィの表情が憂いに沈む。
「お祖父ちゃんは、どんな環境にも適応できる超〝種族〟の研究も進めていたの。その実験台に、助手のシルバーが選ばれ、その人格を超〝種族〟のために用意された、新たな身体に移植したとき、怖ろしいことが起きた……」
ミリィの話は回想に入った。その回想を物語風に著述すると、次のようになる。