パック
銀河帝国の首都・洛陽シティの歓楽街、すらりと天を指すようなほっそりとしたスカイ・パレス・ビルのオープン・テラスに、一人の青年……いやまだ少年といっていい年頃だ……が、苛々とした様子でテーブルに席を取っていた。
地上数十キロという高みにあるオープン・テラスからは洛陽シティの全容が手にとるように見てとれる。
雪崩落ちるような無数のビルが犇く地上には網の目のような走路が張り巡らされ、覗き込むと眩暈がするほど精緻な模様を形作っている。
地上近くから成層圏ぎりぎりまでには数え切れないほどの多数の飛行モービルが斥力プレートを真っ白く輝かせ、シティの管理ビーコンに乗って、目まぐるしく各々の目的地へ向け、飛行していた。
少年の見ている真っ直ぐ先には帝国の中心である銀河帝国皇帝の住まう皇居があるはずだった。だが、無数の建物によって遮られ、ちらりとも目に入ることはない。
もっとも少年の関心は、そちらにはない。少年は忙しく宙に目をさ迷わせた。眼球に移植された情報表示を見ているのだ。
今は、それを時計モードにしている。少年の目には、空中に時刻が表示されているのが見えている。
丸い顔つき、太い眉に、いつもびっくりしたような表情を与えている団栗眼。獅子鼻に、顔全体を横断している大きな口。まあ、ハンサムとは言いがたいが、燃えるような黒い瞳が少年の熱情的な性格を現していた。
少年は、このオープン・テラスではいかにも場違いであった。身に着けているのは宇宙パイロットがよく着ている作業服だし、頭には革製のヘルメットを被っている。太いズボンのあちこちには沢山のポケットが付けられ、そこには工具が無作法な光沢を見せはみ出している。足下は膝まで届くブーツで、長年の酷使に艶はほとんど無くなり、あちこち無残な傷跡が剥き出しになっていた。
少年の座っているテーブルの周囲は、混雑にかかわらず、一種の真空地帯ができていた。周囲を取り囲むようにして席を取っている客は、身動きにつれ虹のような光沢を与える布地や、微かな空気の流れにふわふわと纏いつくような動きをするショールをまとっている。時折ちらちら向ける客の視線は、無言の非難を浴びせかけているかのようである。
と、少年の表情が変わった!
ざわめきがテラス全体を包んだ。ミューズだ……、という囁き声が上がる。