エア・ロック
一瞬にして、エア・ロックの空気が格納庫に向けて放出される。そこは真空だった。
格納庫の中央に【呑竜】が停泊している。距離、約百メートル。
パックとミリィは歩き出す。
よく誤解されるが、真空に投げ出されても人間は即座に死ぬ訳ではない。そりゃ、いずれは命を失う結果になるが、それは酸素の欠乏によるものであり、それまでには一分くらいの余裕は見込まれる。
真空にさらされた人体は爆発する、などというのは嘘っ八である。人間の身体には骨、筋肉、皮膚が何層にも重なり、人体それ自体が優秀な宇宙服でもあるのだ。
二人は大きく口を開けていた。
この場合、口を閉じ、息を詰めることは、絶対に避けなければならない。もし、そんなことをしたら、肺が内圧で膨らみ、肋骨を骨折してしまう。口を開けているから肺は真空にさらされ、空っぽになっている。
目は閉じている。
時々、瞬間的に瞼を上げ、目指す【呑竜】の位置を確認する。目を開けっぱなしにしていると、真空にさらされ、乾燥する。
じりじりとパックとミリィは【呑竜】に近づいていく。側を歩くヘロヘロは、もともとロボットなので、真空は平気である。
ヘロヘロは先行して【呑竜】のエア・ロックを開け、待ち受ける。
二人はエア・ロックに飛び込んだ。ヘロヘロが急いで【呑竜】のエア・ロックを閉め、空気を満たす。
ぜえぜえと、ミリィとパックは喘いでいた。
パックはミリィを見て、笑いを浮かべた。
「やったな!」
「ええ」とミリィは頷いた。ミリィもまた、笑いを浮かべていた。
が、すぐ真剣な表情になる。
「脱出よ!」
エア・ロックから操舵室へ向かう。