真空適応
「真空になっている! 格納庫には空気がないっ!」
エア・ロックの表示を見てとり、パックは叫んでいた。
パックの言葉にヘロヘロは「ええっ!」と悲鳴を上げ、隣のミリィを見上げた。
「ど、どうするミリィ……格納庫が真空じゃ、エア・ロックは開けないよ!」
ミリィは素早くエア・ロックを見回した。
通常ならエア・ロックには宇宙服があるが、なぜか、ここには一つもない。
ミリィは何か考えている様子だ。
やがて決心がついたのか、きっと顔を上げヘロヘロに命じた。
「ヘロヘロ、エア・ロックを開けなさい!」
「えっ? で、でも向こうは真空だよ。空気がないんだよ!」
「判ってる。でも、どうしても【呑竜】には辿り着かないと……」
ミリィは青ざめていた。パックを見つめ、口を開く。
「パック、あんた宇宙パイロットの資格を持っているってことね? なら〝真空適応〟のことは知っているでしょう?」
パックはミリィの〝真空適応〟という言葉とともに、記憶移植された知識が急速に脳裏に浮かぶのを感じた。必死になって移植された知識を「思い出」した。
引き出されてきた知識に、パックは呆然となった。
ミリィに尋ねる。
「ミリィ、本気であれをやるつもりか?」
ミリィは頷いた。
「あたしは断固やるつもりよ。でも、あんたは、ここにいていいのよ。考えても御覧なさい。シルバーが狙っているのは、あたし。それと【呑竜】。でも、あんたは偶然、巻き込まれたんだし、捕まっても大丈夫。少々手荒なことをされるかもしれないけど、あんたの命までシルバーは奪うつもりはないでしょう」
パックは肩を竦め「へっ!」と笑った。
「そりゃ、そうだけどね、おれ、こうなったら最後まで付き合うよ。なんだか、面白そうじゃないか!」
ミリィとパックの二人は目を合わせた。
「それじゃ、行くわよ! ヘロヘロ、エア・ロックを開けて!」
ミリィはパックに向け注意した。
「言うまでもないけど、絶対に息を吸い込んじゃ駄目よ」
「判ってる」
パックは頷いた。
ヘロヘロはエア・ロックの開閉スイッチを押した。