待機
「前方【呑竜】が、超空間フィールドを展開しています! 超空間に転移するつもりです!」
部下の報告に、シルバーは頷いた。
やはりそうか、こちらから攻撃を仕掛ければ、かならず超空間に逃げ込むだろうと予測していた。
宇宙戦艦【鉄槌】のブリッジでは、シルバーの部下が操作盤に向かい、次々と状況を報告していく。
艦長席からシルバーは叫んだ。
「【呑竜】の超空間フィールドを分析、ミリィがどこへ向かうのか、解析せよ!」
シルバーの声を受け、分析班が一斉に数値を読み上げ、計算機が忽ち結果を算出する。
「艦長! 向こうは洛陽へ向かうつもりです!」
「なにっ!」
シルバーは怒号し、立ち上がった。
思っても見なかった。追いつめれば、ミリィは銀河系の外縁部へ向かうと予測していたが、まさか帝国の首都へ向かうとは……。
その理由に思い当たり、シルバーは歯噛みした。
しまった!
帝国首都付近の空域は絶対防衛圏内として、あらゆる戦闘行為が禁止されている。もちろん、戦艦の接近も制限されている。シルバーの戦艦【鉄槌】は主星から二天文単位、つまりオールト雲より内部へ侵入することは禁じられているのだ。
どん、とシルバーは艦長席の肘掛けを叩いた。顎を撫で、考え込む。
「小賢しい娘め……それで逃げ込めるつもりか? それなら……」
ぐいっと観測係に向けて命令した。
「向こうの空間歪曲航跡は記録しているな? もしも【呑竜】が出てきたら、即座に探知できるはずだ。それまで待つさ……たとえ何年かかろうともな……!」