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スクーター

 家を飛び出すと、飛行モービルに乗ったシルバーが接近してくるところだった。

 シルバーは猛烈に怒っていた。眉間が迫り、眉根に深い縦皺が刻まれている。ミリィを見つけ、何か叫ぶ。

 が、あまりの怒りに何を言っているのか聞き取れない。ミリィは、あちこち見回した。


 呟く。


「もしもここが、シルバーがあたしを騙すため、何から何まで忠実に再現されているとしたら……」

 何かを思いついたのか、さっと身を翻し家の裏手へと駈けて行く。

 パックとヘロヘロが追いかけると、家の裏手には納屋があった。ミリィは両開きの扉を思い切り勢いよく引き開けた。


「あった!」


 ミリィは嬉しそうに叫んだ。そこには小型のスクーターがあった。

 無論、車輪ではなく、斥力プレートで地面の反発力を利用して走行するタイプだ。地上すれすれを飛行し、パックも洛陽シティでは同じようなタイプのものを愛用していた。

 ミリィはスクーターに跨ると、叫んだ。


「乗って!」


 パックとヘロヘロはミリィの言葉に弾かれたように、後ろへ乗り込む。

「行くわよ!」

 叫ぶと、ミリィはいきなりスクーターのアクセルを一杯に引き絞る。

「わあっ!」

 パックは予想外にスクーターの加速が強いのに驚いていた。慌ててミリィの腰に手を回し、強くしがみつく。


「ちょっと! 変な所に手をやらないで!」

 ミリィが悲鳴を上げる。

「え?」と、パックは自分の手がミリィの胸まで回っていることに気付いた。

「ご、御免!」

 パックの背後に掴まっているヘロヘロが「へへへへ!」と笑い声を上げた。

「下心が丸見えだよ、パック!」

 ミリィは苛々した声を上げる。

「二人とも、ド下手な漫才は他でやって! 今は逃げる時よ!」


 ミリィのスクーターは麦畑を疾走した。麦の穂が薙ぎ倒され、スクーターは遮二無二スピードを上げる。

 ぶうーん……と、シルバーの乗り込む戦闘飛行モービルが追いすがる。あちらは斥力プレートが前後左右に四基も爛々と光っている。スクーターの斥力プレートは前後二枚。出力は、あちらのほうが上である。

 シルバーは飛行モービルを幅寄せさせてきた。ぐうん、と戦闘飛行モービルの巨体が接近してくる。

 ぶつかる寸前、ミリィはスクーターを急停止させ、シルバーを躱した。

 行き過ぎたシルバーはモービルを急旋回させ、今度は正面からスクーターの横腹を目がけ、突っ込んでくる。ミリィはスクーターを急発進させ、ぎりぎりで逃れる。


「あいつ、何をやらかすつもりだ!」


 パックは呆れて叫んだ。

 ヘロヘロが答える。

「頭に血が昇っているんだ! このままじゃ、殺されるよ!」

 ミリィが振り向き、叫ぶ。

「ヘロヘロ、【呑竜】の場所を教えて!」

「えっ?」

「このスクーターのナビ・システムに、あんたがやってきた通路の道筋を転送させなさい。逆に辿れば【呑竜】の格納庫に行けるわ!」

「わ、判った……」


 ヘロヘロは頭のホイップ・アンテナを撓らせ、ミリィのスクーターのナビ・システムに向けた。ミリィの握っているハンドルのモニターに通路の地図が表示される。


 ミリィはスクーターを森へ向けた。


 森には戦車と、それに付き従う戦闘部隊が進軍を続けていた。

 近づくスクーターに向け、戦車の砲塔がぐるりと旋回して狙いをつける。


 ずばっ! ずばっ!


 砲口に白煙が立ち上り、次々と砲弾が発射される。


 どかああんっ!


 スクーターの周りに着弾し、土塊が跳ね上がった。爆風でスクーターは大きく揺さぶられる。

 パックは、ちらりと背後を振り返った。

 戦闘飛行モービルに乗り込んだシルバーは、モービルを自動運転にして立ち上がり、銃座に取り付いた。銃把を握り、決死の形相で引き金を引く。


 だだだだだだっ!


 銃口から銃弾が送り込まれる。大口径の銃弾は、スクーターの周りに弾幕を走らせた。

 と、モービルの正面に向けて、戦車が砲弾を発射させた!


 モービルの前方の地面が爆発する!


 がくん、とシルバーのモービルはつんのめり、地面に逆立ちになって裏返った。

 ぼおんっ、と驚くほど大きな音を立て、モービルは燃え上がる。燃え上がる車体がぐらぐらと揺れ、シルバーが両腕を頭の上に差し上げ、なんと車体を持ち上げていた。


 ぎらぎらとした怒りの視線でシルバーは遠ざかるスクーターを見つめている。

 ぶんっ、とシルバーはモービルを投げ棄て、歩き出した。銀色のボディには、傷一つさえも見当たらない。


 パックは呆れた。

「あいつ、不死身だ!」

「でも、何でシルバーがやられるんだ? この軍隊は、シルバーの軍隊なんだろ?」

 ミリィが叫び返した。

「多分、自動で動いているのよっ! シルバーが銃撃したんで、自分たちを攻撃したと判断したんだわ!」

 パックは行軍している歩兵部隊を見た。


 ごつごつした戦闘服を身に纏い、背中に大きなバック・パックを担いでいる。その顔は人間のパロディのようで、マネキンのように無表情だ。

 あきらかにロボットだ。それも、かなり簡略化されたタイプで、自分で判断する能力は与えられていそうにもない。

 ロボット歩兵たちはスクーターが側を通り過ぎても無関心だった。戦車もまた、時折は砲弾を送り込むが、パックたちを特に狙っているという様子はなかった。


 そうか、これは戦争というお芝居を続けているだけなんだ! パックは密かに頷く。

 スクーターは森の中へと突っ込んで行った。

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